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主観的幸福度
「経済的豊かさは、生活満足度の上昇に結びついていないが、こうした現象は先進国に共通している」(2008年国民生活白書)。経済発展が生活満足度の上昇に結びつかない現状を受けて、新たな政策目標を考えていくために、国内総生産に代わる新たな目標とすべき指標の開発が様々な研究機関で行われるようになっています。たとえば、内閣府の国民生活選好度調査において、そのような取り組みが行われています。
世界各国の一人当たり所得のデータを横軸にとり、アンケート調査によって得られた主観的幸福度指標(あるいは生活満足度指標)を縦軸にとると、ある所得水準までは所得の上昇の伴い主観的幸福度の増大傾向が見られます。しかし、一定の所得水準を超えると主観的幸福度の増大傾向はみられなくなることが知られています。したがって、所得水準がある程度のところまで達した場合には、所得水準以外の要因が主観的幸福度の決定要因となっている可能性があります。
本研究テーマではこの所得水準以外の要因を明らかにすることを目指します。特に環境問題が主観的幸福度にどの程度影響を及ぼしているのかについて評価を行っています。これまでの我々の研究では、人体に悪影響を与える環境汚染の低減は主観的幸福度を増大させる可能性を有しているという結論が得られています。一方で、二酸化炭素排出量削減は主観的幸福度を高めるという結果は今のところ得られていません。「自分にとって身近な問題かどうか」という視点が重要ということになるのではないでしょうか。
なお、「幸福であればあるほど環境問題に対する意識は高まるのであろうか」という議論も存在しています。たとえば、幸福度の高い人間はそうでない人と比べて他人に対してより優しいのでしょうか。自分に余裕があることで、他者のことも思いやる余裕が生じるのでしょうか。もしそうなのであれば、幸福度を高めることが環境問題の解決の一助を担うという議論も生じてくるかもしれません。
キーワード
主観的幸福度、生活満足度、幸福のパラドックス
関連論文・著書
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鶴見哲也,倉増啓,馬奈木俊介. 2013. 幸福度指標を用いた自然資本の金銭価値評価(分担)『グリーン成長の経済学―持続可能社会の新しい経済指標』第7章, 昭和堂(編:馬奈木俊介)
鶴見哲也,倉増啓,馬奈木俊介. 2013. 幸福度と環境保護活動(分担)『グリーン成長の経済学―持続可能社会の新しい経済指標』第6章, 昭和堂(編:馬奈木俊介)
鶴見哲也, 倉増啓,馬奈木俊介, 2013. 幸福度アプローチによる金銭価値評価―主観的幸福度と原子力発電所―, 環境科学会誌 26(6), 571-578
Tsurumi, T., K. Kuramashi and S. Managi, 2012. Determinants of Happiness: Environmental Degradation and Attachment to Nature, S. Managi (Eds.) The Economics of Biodiversity and Ecosystem Services. Routledge, New York, USA.(forthcoming)
鶴見哲也. 2012. 主観的幸福度と環境意識―生物多様性保全に対する支払意志額を用いて―, 南山経済研究, 26(3): 147-160.
倉増啓, 鶴見哲也, 馬奈木俊介. 2011. 幸福度と環境保護への支払意思の関係性(分担)『生物多様性の経済学』第6章, 昭和堂(編:馬奈木俊介, IGES)
倉増啓, 鶴見哲也, 馬奈木俊介, 2010. 主観的幸福度指標と環境汚染:国内でのサーベイデータを用いた計量分析, 環境科学会誌. 23(5): 401-409.
倉増啓, 鶴見哲也, 馬奈木俊介, 2009. 幸福と環境水準〜主観的幸福度指標の適用〜, 環境科学会誌. 58: 346−363.
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