私の研究目的は、社会をより持続可能・再生可能なものにする介入の仕方、その際に考慮すべき事柄について、「食」と関わる事例に即して明らかにすることです。
　1950年代以降の「大加速」(great acceleration)とも呼ばれる人口、農業、エネルギー、経済などの急激な移行・転換のなかで、私たちの生活様式は大きく変わり続けています。人口動態の変化、食料増産、潤沢なエネルギー、経済機会の拡大などは人々に多くの恩恵（と搾取）をもたらしてきました。その一方で気候変動、天然資源の枯渇、汚染、生物多様性の喪失などの人類の生存基盤を揺るがす生態学上の変化も生じています。
　今日の世界を形作った大規模な移行・転換の行く先が、望ましくないようであるならば、その変化の仕方を変える（介入する）必要があります。「社会の持続可能性を向上させる移行･転換」(Sustainability Transition、以下｢ST｣)は、さまざまな介入の取り組みを分析する際の、鍵となる観点です。例えば、気候変動への対策、天然資源の劣化に伴う食料不足への対策、マイクロプラスチックなどによる広域汚染への対策、ゲノムテクノロジーやAIの軍事転用にかけるべき規制の模索などの取り組みを、STの観点から分析することができるでしょう。
　そのなかでも、私は特に「食」と関わるSTに着目しています。フードシステムのあり方は、社会・技術・生態系の複雑な相互作用の影響を大きく受け、また、それらに与える影響も大きいことが知られています。それでは、食と関わる移行･転換が、より公正になされるためには、現状へのどのような介入がありうるでしょうか？
　この課題に対して、①国内外の事例に即して、様々な介入の仕方を具体的に明らかにし、②頻出する「厄介な問題」(wicked problems)にどのように取り組んでいるかを整理し、③自由を支える最低限の規範としての倫理のあり方と、そこからはみ出る事柄を検討しています。特に、②については、②-1. 目下生じている社会・技術・生態系の複雑な相互作用に対して誰がどのような言語的表現を与え、②-2. 異なる利害関心や現状認識をもつ関係者がどのように相談・交渉・連携したかに注目しています。