社会科学研究科にあって，自然科学的視点から研究を行っています。特に，水環境の特性について解明をするとともに自然環境政策や防災政策について考えていきます。自然科学的知見と社会科学的知見が融合することは，自然を活用する場合，人間活動に伴う自然への負荷について評価しなければなりません。その中でも，自然界における水のあり方・分布・性質・由来の解明ならびに水と人の相互関係をテーマに，"水"を基軸として地球環境変動や人間活動が自然環境に与える影響についての研究について取り組んでいます。
　地球規模の気候変動による水環境への影響は，湿潤地域と乾燥地域の降水量格差といった水資源の偏在化をもたらし，日本の湖沼では冬季における湖面水温上昇による不完全な鉛直循環とこれに伴う深水層への不十分な溶存酸素の供給について，池田湖や琵琶湖などでは多くの議論がなされています。また，雪氷圏への影響としては，大陸氷河や山岳氷河の縮退，海氷の縮小，永久凍土の融解拡大などが報告されています。その中で，日本の大深度湖沼において，地球規模の気候変動による生態系への湖沼環境の将来予測の評価に関する研究を進めています。日本には，最大深度が水深100mを超える深い湖が11湖あります。そのうち，田沢湖，支笏湖，十和田湖，摩周湖，倶多楽湖，本栖湖のそれぞれの湖底で水温の観測を進めてきました。地球温暖化の傾向として，21世紀に入ってから気温上昇率の停滞（ハイエイタス）が見られ，その原因として，海洋における深層への熱移流の増加や太平洋10年規模変動との関係が指摘されており，陸地における湖水の熱的環境についても議論していく必要があるといえます。しかしながら，各地で検証されている熱的環境の解析は，グローバルな気候変動に対する解析であり，その湖沼が位置する地域的な気候変動を考慮した解析には至っておらず，地域性に留意してその特性を明らかにする必要があります。
　主な調査対象地域である北海道における気候変動の状況は，1960年代後半から1980年代半ばまでのやや低温の時期を経て，1990年頃に急速に気温が上昇しており，気温が顕著な高温を記録した年は，おおむね1990年以降に集中していることが報告されてます。さらに，特に冬季の気温上昇が有意な傾向がみられているとされ，毎年全面結氷していた湖沼で全面結氷に至らない事象も生じてきてます。そこで，湖水面の全面結氷・部分結氷を一つの指標として，より現実的な湖の熱的環境を整理しております。また，全面結氷した場合における，『氷の厚さ』についても解析を共同研究で進めています。全面結氷期間の短縮化は，湖面蒸発の長期化による水循環の活発化などで基礎生産をはじめとする生態系に影響を与えることが考えられ，世界の大型湖沼において，地球規模の気候変動による生態系への湖沼環境の将来予測の評価に貢献したいと考えております。
　第2の調査対象は，東南アジア最大の流域面積を誇るメコン川流域に位置する，季節による湖面積の変動が世界でも有数の規模であるトンレサップ湖（カンボジア王国）です。そこでは，熱帯地域における物質循環と生物多様性維持機構の解明について研究を実施してきました。カンボジア王国では，社会経済基盤の整備が未熟なまま，トンレサップ湖北岸に位置する世界遺産アンコール遺跡群を訪れる観光客が激増し，観光産業が計画性のないまま発展してきました。特に，同国の長年にわたる混乱により自然的資料が散逸して状態で過去の自然環境の状態が明らかでないため，環境学・自然地理学の視点に基づく熱帯地域の生物多様性維持機構に関して，同地域に顕在化しつつある自然環境汚染に着目し，2004年から水質環境の現状を評価してきました。同湖の乾季の湖面積は約2,500 ㎢（琵琶湖の約4倍相当）であるが，雨季にはその約5倍にも広がることが知られており，乾季と雨季が明瞭な水文気象条件下による水質の季節変動について論じました。乾季の湖水には人為的汚染物質の比率が高くなる一方，雨季にはメコン川からの逆流水による希釈作用が働くことを指摘し，環境政策における流域的規模の水環境保全の重要性についても言及しました。
　社会学研究科では，自然環境問題について，地域・地球規模にわたって生じている事象を問わず，総合的な視点をもって多様な環境問題をテーマに展開していきます。現代社会が直面する環境問題においては，人と自然環境の密接な結び付きを理解し，自然科学と人文・社会科学の知識を合わせ，人が自然と共存し，持続可能な発展をめざしていく必要があります。そのなかで，様々な視点・切り口から、モノ（物質）の移動・収支を解明し，自然環境と資源の適正利用ならびに自然と人間社会の相互関係について考察し，環境問題の解決方法・災害対策の立案など環境政策の構築について探ります。