企業に社会的な責任などあるのでしょうか。企業に社会的な責任があるという着想が、どのような思想や前提のもとに形成され、変容し、自明視されてきたのか。この疑問を哲学・倫理学的な関心とアプローチから考えています。企業の社会的責任という考えかたは、あなたにとって常識でしょうか、あるいは非常識でしょうか。社会から非難を受けにくく、称賛されやすいのはこれを肯定する立場かもしれません。けれどもそうした主張を支持する正しい理由をあなたは正確に説明できるでしょうか。かりに「儲かるから」とか「評判や評価が高まるから」という理由を挙げるのなら、儲からない場合や評価や評判を期待できない場合に、企業は責任を果たさなくてよいことになるのでしょうか。
　私は経営の善し悪しを語る議論とその前提に関心を持っています。多くの議論がなぜ、あるいはどのような条件でという前提を見過ごしているように思えるためです。近年では民間企業が「持続可能な開発目標（SDGs）」に関与する経営がホットイシューになりつつあります。国連が定め、加盟国政府が責任を負う国際政治のイニシアチブに、民間企業が積極的に参画すべきだというのはなぜなのでしょうか。私は特定の立場を非難し、主張を否定したいのではありません。そのように議論する理由を正確に知りたいのです。
　企業経営を成り立たせる「当たり前」に疑問の目を向け、問いを立て、納得できる答えを探す。経営学では事実、実績、実証を重んじる傾向があります。他方、倫理学では事実への認識、実績への評価、規範からの逸脱に関心をむけます。経営倫理学は経営学と倫理学とに接点を見つける学際研究であり、私は双方の架橋を試みる研究活動を進めたい考えています。