日本企業のM&A（企業の合併と買収）の経済的機能についての実証分析を行っています。具体的には、以下の2つの研究に取り組んでいます。
　第1は、戦前期の会社支配権市場の役割についての研究です。これまでケース・スタディなどで戦前のM&Aは活発であり、企業経営に規律を与えてきたと主張されてきましたが、それがどの程度システマティックなものであったのかについては十分に解明されてきませんでした。そこで戦前日本企業のM&A、財務、所有構造に関するデータセットを用いて、①いかなる企業がレイダーやターゲットとなる傾向にあったのか、②M&A実施後、それらのパフォーマンスは向上したのか、についての分析を行っています。こうした検証を通じ、当時のM&Aの有効性の解明のみならず、日本企業のコーポレート・ガバナンスの進化の過程についても新たな知見が得られるものと考えられます。
　第2は、近年のMBO（マネジメント・バイアウト：経営陣による自社買収）の動機と事後パフォーマンスについての検証です。MBOを通じて株式を非公開化することによって、短期的な収益にとらわれない抜本的な事業再構築が可能になるといわれています。ただ、その一方で、買い手が売り手を兼ねることにより、マーケットから締め出される少数株主に提示されるプレミアムが不当に安値になってしまうのではないかとの懸念も指摘されています。①いかなる企業がMBOを実施しているのか、②それは少数株主の富にどのような影響を与えているのか、③MBO実施後、意図したパフォーマンス改善は実現されているのか。これらの観点から、MBOのベネフィットとコストについて検討しています。