経済学専攻に所属していますが、私は社会学者です。いまは社会学の観点から経済現象を考察し、説明する経済社会学を専門にしています。
　経済学と社会学の違いは？と思われるかもしれません。この問いに答えるのはとても難しいことですが、一つ単純な例をあげて説明してみましょう。
　例えば、経済学は、どうすれば人びとが皆、自分の満足のいくものを手に入れられるかを研究する学問だとしましょう。それに対して社会学は、人が満足するとはどういうことなのか、といったことを考えます。満足は欲望が満たされたときに生まれるのさ、と答えたとしましょう。そうすると社会学は、ではその欲望はどこから生まれるのか？ と問うのです。そりゃあ生まれつきだろう、と答える人がいるかもしれません。でも、人の欲望はそれだけで決まるのでしょうか？　社会学は、人間の欲望あり方は、その人が生まれ育った環境や社会構造、規範や慣習、習慣や信仰、さらには一般的に文化などによって影響を受けて違ってくるといいます。
　つまり、人びとの満足は、手に入れるだけで決まるものではないのです。同じものを手に入れて満足している人もいれば、まったく不満な人もいるのです。そして、それは生まれつきの違いでもなく、環境や社会構造、文化などによっても違ってきます。
　だとすると、人びとが満足のいく社会を考えるには、経済学だけでは限界があることがわかります。人びとにその欲しいものをうまく手に入れられるようにするだけでは十分ではないのです。満足は手に入れることだけで得られるものではないからです。そこに社会学が、経済について語る余地も生まれると私は考えています。もっともこれは、満足という点だけに着目した一つの例ですが。
　このような観点から、私は人びとの消費、流行などを考え、研究しています。ただし、経済とは、一見まったく無関係に思える分野も研究しています。それは情報化、監視社会化やプライバシーであったり、アイデンティティであったり、コミュニケーションや人間関係であったり、社会の自殺率であったりします。ひと言で説明はできませんが、これら性格の異なる分野は、根底においては経済、とりわけ経済社会学と関連し合っていると考えており、それらを結びつける作業をやり始めています。