私の研究分野は、労働経済学です。これは労働のさまざまな側面、すなわち就職・転職・退職、職業生活、正規雇用と非正規雇用といった雇用形態、労働時間、賃金、勤労所得、仕事に関する満足度などを研究対象とする分野です。私は、データ分析によって労働の実態および問題点を明らかにしようとしています。
　普段利用しているのは、パネルデータといって、同じ人たち（または事業所など）の実態を追跡調査してできるデータで、横断面データと時系列データの両方の性質を合わせもっています。パネルデータを用いると、人々の働き方の変化が、その人に固有の性質や事情によるものか、それとも日本経済または世界経済の情勢によって影響を受けているのか、またはその人の属する世代に特有の考え方や行動によって左右されているのかが、よくわかります。
　私がパネルデータを用いてこれまでに分析したか、またはこれから解明しようとしているのは、以下のようなことです。
・女性の正規雇用は、本当に若い世代ほど進んでいるか？
・日本の女性は、家計補助的に就業し、夫の所得が高いと就業しない傾向があると言われているが本当か？
・いったん非正規雇用者になった人が、正規雇用者に転換できる確率はどのくらいか？また、どのような条件があれば、正規雇用者になる可能性が高いのか？
・職業資格を取得した人と取得していない人のキャリアは大きく異なるか？
・年齢が高くなってから専修学校や大学に進学した人の、その後のキャリアはどうなっているか？
　最近では、日本だけではなく、オーストラリアやEUのパネルデータを用いて以上のようなテーマに関する国際比較を行っています。日本人の働き方や労働市場のあり方には、諸外国のそれと似ているところもあれば違っているところもあり、興味深い結果が得られています。労働市場制度の進んだ国のデータを分析すると、日本も将来こうなっていくであろう、と予測することができます。