開発経済学では、従来、直接投資が途上国の産業育成を促すポイントとして、“技術波及効果”（スピルオーバー効果）が注目されてきたのですが、自身もこの点と関連し、「日本企業のアジア子会社に対する技術移転や人材育成のあり方」について研究を進めてきました。
　このテーマに関しては、従来の諸研究において、(1)日本企業の場合、技術や技能の暗黙知的な特徴が強く、これらの移転や育成に時間がかかりやすい、(2)その結果、日本企業のアジア子会社では、現地人材の登用が遅れ気味となり、彼らの意欲や能力が阻害されがちである、(3)日本企業にとっても、優秀な人材が定着しにくく、アジアでの成長機会を十分に取り込めない、等の問題点が指摘されてきました。自身もこれらの問題点を念頭に、たとえば以下の疑問に注目しつつ、聞き取り調査に基づく実証的な研究や、日本人幹部と現地人材の間でのゲームに基づく理論的な考察を進めてきました。
(ｱ)“従来の日本企業の特徴”と“現地従業員の職務観”の間に、どのような違いがあり、その結果、どのような非効率（ミスマッチ）が生じるのか。
(ｲ)上記ミスマッチ問題の解決に向け、現地子会社はどのような取り組みを進めてきたのか。
(ｳ)上記ミスマッチ問題と関連し、現地人材の幹部への登用を進めた場合と遅らせた場合とで、どのようなメリットvs.デメリットがあるのか。
　さらに近年、「日本企業の人材・技能育成のあり方が、流動性を高める方向に変化しつつある」、「日本本社－アジア子会社間の交流や相互学習が深まる中、双方で“グローバル人材”の育成が求められている」等の傾向がみられます。従って、「これらの変化によって、上記(ｱ)－(ｳ)に関する考察結果にはどのような影響があるのか」という点も、注目すべき検討課題になると考えられます。