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第37回 ジョルジョ・ラ・ピーラによる人間の尊厳 「人間の尊厳」Angelina Volpe先生
2025.03.17
「リスペクト・尊敬」という言葉はラテン語のrespicereに由来し、ある説によれば「映す」という意味がある。このように、他者の中に自分自身を映す。言い換えれば、尊敬とは何よりもまず自分自身に対するものといえる。心理学や人類学の専門家でさえ「自分自身」を説明することはできない。つまり、完全にその意味を把握することはできず、また誰もそれを操る権利もないという驚くほどの「ミステリー・神秘」である。しかし、私自身が尊重される権能があるミステリーであるならば、相手も同等といえよう。
これに関して、過去に執筆した「ジョルジョ・ラ・ピーラによるキリスト教人間学」の論文より引用したい。
ジョルジョ・ラ・ピーラ(1904年--1977年)はイタリア・シチリア出身で、40年間フィレンツェ大学でローマ法の教授を務めた。彼はファシズムに断固反対し、そのために迫害された。戦後はイタリアの政治活動に参加した。また制憲議会議員としてイタリア憲法の起草に貢献し(1946--1948年)、後にフィレンツェ市長を務めている(1951--1965年の間に3期)。市長の任期中、彼は失業者、ホームレス、貧しい人々のために働いた。同時に、フィレンツェを国際都市に変え、異なる文化や宗教を持つ人々、さらには互いに争っていた人々をも結びつけるように努めた。冷戦時代にはソ連との友好の架け橋となり、アラブ諸国とイスラエルの和平、ベトナム戦争の終結、軍縮と原子爆弾廃絶に尽力した。
ラ・ピーラは、出会ったすべての人に、また出会わなかった人々に対してでさえ、深い尊敬の念を抱いていた。彼にとってすべての人が、ナザレのイエスが実践したように、かけがえのない尊厳のある兄弟姉妹であった。
「ジョルジョ・ラ・ピーラによる人間学」『20世紀の聖者』ドン・ボスコ社、2010年、52--53頁より。
人間は政治的共同体(communitas politica)に対して、自己全体に即して、また自己のもつすべてに即して秩序づけられているわけではなく、〔......〕およそ人間がある、できる、もつところのすべては、神にまで秩序づけられるのでなくてはならぬ(ordinandum est ad Deum)[1]。
人間の価値は「道具」(propter aliud)としてではなく「目的」(propter se)である。すべての社会的目的、あるいはすべての「外」的目的を超える価値をもつ生き物である。政治的な共同体に仕えるために存在するのではなく、まず神を目的にする者である。「人間は人間であるからこそ価値がある。〔......〕神から与えられた人格の光に参加するからである」[2]。[......]結果として、社会は「実体」として存在するのではなく、「秩序の統一性」(unitas ordinis)となる。個人は社会と国家より先である。言い換えるならば、安息日は人間のために存在し、人間は安息日のために存在しているわけではない。社会、国家、人類、そして教会さえも人間の代わりにはなれず、それらは自己完成への歩みが容易になるように個人を助けるためにある。経済、法律、政治、文化や宗教は真の目的、すなわち神に達するように個人を支えなければならない。ラ・ピーラは人格を持つ人間を「神の街」と呼ぶ。その街は神によって、攻略、分裂、譲渡できないものとして創造され、どのような「愚かな」集団主義によってもそのかけがえのない価値は消されることがない[3]。しかし、個人が集団よりも大事であると言ったところで個人主義を認めるわけではない。むしろその逆である。人間は社会的本性を持っている。個人は本来の孤独状態にいると考えたホッブズ、ロック、ルソーとは異なり、ラ・ピーラは「人間は他者と絆を結びたい生き物である」と述べる。事実、人間の構造はまるで天秤のように片方に愛の要求があり、他方のさらにその要求を実現させてくれる他者が載っている。知性に関しても同じと言える。知性は本質的に、他者の知性の協力を必要とするからである。
宇宙構造における連帯性と秩序に基づく一致のおきては、類推的に人間社会の中にも見える。それぞれの存在が他のすべてに即して秩序づけられているように、それぞれの石がその建物に即して秩序づけられているように、各器官が有機体に即して秩序づけられているように、〔......〕同じようにそれぞれの人間も他の人に即して創造され、社会の一部なのである[4]。
人格を持つ個人は神聖で不可侵なものであるという信念に基づき、ラ・ピーラは人間の社会性、家族や国家を絶対的なものにせずに、その大切さを訴えた。
ラ・ピーラはこのような信念に基づき、人生を最後まで具体的に生きた。
[1] Summa Th., II, 1, 21, 4 ad 3.
[2] G. LA PIRA, Il valore dell'uomo, in Id., Le città sono vive, Editrice la Scuola, Brescia 2005, 89.
[3] G. LA PIRA, I problemi della persona umana, in Id., La casa comune, una costituzione per l'uomo, Cultura Nuova Editrice, Firenze 1996, 89.
[4] Ibidem, 99.