南山大学 国際教養学部 Faculty of Global Liberal Studies

深めて!南山GLS 学生の活躍 GLS教員リレーエッセイ

第34回 「人間の尊厳」vs「人間の尊厳」の戦い  「人間の尊厳」山岸 敬和先生

2024.12.16

11月、アメリカ大統領選挙の結果が出た。予想以上に早く勝利者が決まり驚いた。

 

投票日直前に現地入りした。大学の学生に聞き取り調査を行なうためである。

 

近年、アメリカ政治は「分極化」「分断」という言葉で表される状況になっている。二つの異なったグループ――今回でいうとトランプを支持するグループとハリスを支持するグループ――に分かれ、それぞれのグループが持つイデオロギーがより明確化されると同時に、二つのグループ間の距離が広がっていく。そして、二つのグループ間での対話がなされなくなる。こういう状況である。

 

トランプは、長年民主党の支持者でありながら軽視されていたと憤る労働者、特に白人労働者の票を集めた。ハリスは、自らがアジア系であり黒人であり、そして女性であることもあり、多文化共生社会の推進をメッセージの中心に据えた。

 

トランプは白人至上主義者とのつながりを否定しない。そして性的マイノリティに対しても権利の拡大に否定的な態度を示す。ハリスからすればトランプは「人間の尊厳」を軽視する人物に映り、トランプ支持者は利己的な集団に映るだろう。

 

しかし、南山大学の「人間の尊厳のために」という教育モットーの説明のところでもしばしば言われるが、人間の尊厳を考えていくためには、まず「かけがえのない自分」を確認することが必要となる。そうしないと真の意味でかけがえのない他者を認めることができないからだ。

 

トランプを支持する人々にはもちろん自己中心的な理由の人もいるだろう。しかし、自分の尊厳が侵され、それを回復するために一票を投じた人もいるはずだ。そうなると、今回の選挙は「人間の尊厳」対「人間の尊厳」の戦いということになろう。解決することが難しそうにも見えるが、実は二つのグループは地続きで繋がっているとも言える。

 

そこで重要なのは、真理を追求するため、より良い社会を作るための対話なのである。その時に大学という場所は重要になってくるのではないかと思う。大学は社会と比べてゆっくり考え、対話を実践する時間がある。教員と学生が一緒に学び、社会に関わっていくことで、社会に対話の輪を広げていければと、今回の選挙を見ていて改めて思った。

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選挙直前の現地での学生インタビューの様子

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選挙直前の連邦議会議事堂にて。この「記念碑」については以下を参照。Bo Erickson, "Poop-emoji statue near US Capitol evokes stain of Jan. 6 riot," Reuter, October 26, 2024, https://www.reuters.com/world/us/poop-emoji-statue-near-us-capitol-evokes-stain-jan-6-riot-2024-10-25/.

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