深めて!南山GLS 学生の活躍 GLS教員リレーエッセイ
第18回 教員リレーエッセイ 塩寺 さとみ先生
2023.01.06
「さかなの世界」
塩寺さとみ
明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
南山大学に赴任してから早くも一年半以上が過ぎましたが、ご時世柄出歩くことが少なく(+自分の出不精のせいで)いまだ名古屋市の全貌が分からない状態です。引っ越してくる以前は、名古屋市が海に面していることから、勝手なイメージで魚介類が美味しいと思い楽しみにしていました。いざ来てみると、残念ながらスーパーには名古屋産のさかなは置いておらず、代わりに日本海産のさかなが多く見られました。愛知県全体としては漁業が盛んなようですので(下図参照)、今年は遠征してみたいと思います。
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/suisan/0000001754.html
さかなといえば、先日、堀川にボラが大量発生したというニュースがありました。ボラはボラ目ボラ科に属するさかなで、西アフリカ熱帯域を除くほぼ全世界の海域に分布しています。日本では北海道以南にみられます。沿岸域の浅瀬から河川下流域にかけて生息しており、デトリタス(生物遺骸)、藻類、甲殻類や多毛類などを食べて生活しています。成長にともなって名前が変わる出世魚(関東ではオボコ→トド)として有名で、卵巣を塩漬けしたものは日本三大珍味のひとつである「からすみ」として食べられています。名古屋では例年、海よりも川の水温が高くなる冬から春にかけて、名古屋港などに生息するボラが群れを作って海から堀川などに遡上しますが、今年はなぜか大量発生した(名古屋市環境科学調査センター)とのことでした。
私の授業では環境や生き物に関する最新ニュースを紹介することがあるのですが、最近、気候変動にともない、海の生き物に関するニュースが多く見られるようになりました。海の生き物は水温の変化に敏感で、それによって生息域が大きく変わります。例えば、近年、東京湾ではタチウオが大量に取れるようになり、新たなブランド化も考えられているそうです。これは、東京湾での冬期の水温の上昇が影響しているようです。
日本の主要な水産資源の多くは回遊性魚介類(生涯で移動を行う魚介類の総称)です。これらには分布適水温があり、季節的な水温の変化とともに夏は高緯度方向に、冬は低緯度方向に移動します(木所 2019)。日本海が高水温になって影響を大きく受けたさかなとして、サワラ、ブリ、スルメイカが挙げられます。私が子供の頃は、北海道ではブリといえば暖かいところのさかなで、高価なためお正月以外はめったにお目にかかることができませんでした。ところが、近年では、水温の変化とともに日本全体で漁獲量が増えており、いまや全水揚げ量の一割程度が北海道産となっています。
私達ヒトは恒温動物ですので、外気温が変化してもある程度は体温を一定に保つことが可能です。また、文明の利器として冷暖房器具を使用することもできます。ところが、魚は変温動物ですので、自分で体温を調節することができず、水温により体温が変化してしまいます。このため、厳密な適水温が存在し、水温が変化すると、住める場所を求めて移動する(もしくは、移動できなければ死滅する)ことになります。さかなの立場に立ってみると、水温が変化することで、自分たちの住める世界が狭くなったり広くなったり、はたまた大幅に移動してしまうことになります。去年まで行けた場所に今年は行けなくなったり、反対に未知の領域にふいに踏み込めるようになるのは、さかなにとっては日々冒険といった感じで、結構すごいことなのではないかと思ったりします。逆に、漁業者の立場に立ってみると、これまで捕れていたさかなが急にいなくなる(もしくは、見られなかったさかなが急に出没する)ことなどにより死活問題となってしまいます。さかなの世界は私達が思っている以上に変幻自在なのです。
堀川のボラも水温の変化によって急に広がった新しい世界に驚いているのかもしれませんね。
- あいちの水産業
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/suisan/0000001754.html
- NHKニュース「名古屋市堀川 大量の魚が川を埋め尽くす」
https://www3.nhk.or.jp/tokai-news/20230105/3000026840.html
- WEB魚図鑑
https://zukan.com/fish/internal300
- テレ朝news 「変わる「江戸前の主役」冬の東京湾でも次々にあがる太刀魚 ブランド化も」
https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000282063.html
- 気候変動による回遊性魚介類の変化と日本漁業の適応
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pamjsfe/2019/0/2019_153/_pdf/-char/ja