南山大学 国際教養学部 Faculty of Global Liberal Studies

深めて!南山GLS 学生の活躍 GLS教員リレーエッセイ

第12回 GLS教員エッセイ 山岸 敬和先生

2022.05.18

政治を学ぶということ

山岸敬和

私の専門分野は政治学で、特に日米の医療政治・政策を中心に研究を行なっている[1]

日本の大学で教え始めてから16年目になるが、政治を学ぶということの重要性が社会の中で認識されていないと感じることが多い。

私が政治学の博士号を取得したアメリカでは、政治学部はどんなに小さな大学でも必ずと言って良いほどあり、多くの大学で「American Government/Politics」が必修科目になっている。他方、日本の大学では、大きな大学では政治「学科」(通常法学か政経学部の中にある)があるものの、「日本政治」が必修科目になっている大学はほとんどないのではないだろうか。

このような日米の違いは、国としての成り立ち方が大きく影響している。アメリカという国家は、国家権力が強大だったイギリスの政治体制を否定してできた国である。そのため権力が一極に集中しないように精巧に分権化された。そして三権分立が機能しているのか、連邦政府と州政府の役割分担が憲法の定めるものから逸脱していないかが常にチェックされる。その中で政治学は、アメリカ市民が政府のあり方を正すための「武器」として位置付けられるのである。

他方、日本では近代国家の道を歩み出した明治維新の時にも、新憲法で新たなスタートを切った戦後間もなくの時期にも、国民が市民社会を構成し、政府のあり方を議論するという文化が根付かなかったといえる。

ただ私は日本を悲観しているわけではない。明治以降西洋から輸入された「デモクラシー」を理解し、それを自分のものにし、それを日本的なものに進化させていく、このプロセスには時間がかかる。明治維新後、日本はずっと急いで近代化を進め、戦後には経済復興を進めてきたため、日本的な政治のあり方、デモクラシーのあり方をゆっくり議論する時間がなかったといえる。

アメリカンデモクラシーが揺らいだといわれるトランプ政権の誕生、主権国家に侵攻するという決断をしたプーチン政権など、世界各地で政治のあり方が改めて問われることが起きている。今こそ、政治を学び、政治に参加することの重要性を認識すべき時である。

[1] 主要業績:山岸敬和『アメリカ医療制度の政治史』(名古屋大学出版会、2014年)、Takakazu Yamagishi, Health Insurance Politics in Japan (Cornell University Press, 2022).

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