深めて!南山GLS 学生の活躍 GLS教員リレーエッセイ
第4回 GLS教員リレーエッセイ 後藤 邦夫 先生
2021.09.15
「文系だからコンピュータが苦手というのはやめよう」
後藤 邦夫
理系人間の特徴
筆者は本学部でICTに関する授業科目を担当する。専門分野は通信技術、情報セキュリティ、音楽情報処理などで、国際教養学部では希少価値があるかもしれない理工系の教員である。当然、コンピュータの管理やプログラミングは得意で、英語の文献やWebページを読み、英語で論文を書く。一方で数量的に測りにくい人間の感情や行動傾向に基づく人文社会科学にはどちらかというと疎い。また、英会話の機会が少ないので、35年前のUS生活経験 (1.5年) があっても、英語舌になるまで数時間の慣れが必要である。聞くほうはTVドラマやビデオで慣れている。
理工系人間の特徴の一つに「白黒はっきりつけたがる」ことがある。[1] によれば、理系人間は「絶対」を使わない。普通の人は「あしたは絶対雨だよ」と言うが、理系人間は「90%雨だよ」と言いたい。「証明」や「検証」という言葉は慎重に使う。「事前予約」って変な言葉だなあと細かいことにもこだわる。事後予約はありえないので、単に「予約」が正しい。「発売中」はXX日発売、またはXX日から販売中が正しいと主張する。「トイレは3階になります」もトイレの場所が変ったならわかるが、「トイレは3階です」でよい。みなさんはどう思いますか。
GLSのLSであるリベラル スタディーズ (アーツ) は、例えば [2] では、
リベラルアーツは日本ではほぼ「教養」と訳されることが多く、それは「専門的知識」に対する「一般的知識」「分野横断的知識」「さまざまな学問分野を広くとらえ、その基礎部分に注目した知識」という文脈で使われることが多いです。
と説明されている (引用)。その意味で本学部の学生は英語だけでなくコンピュータを使いこなすことが求められる。筆者は逆に人文社会科学系の学問も学ぶべきである。
使うだけなら理系数学と物理学は不要
さて、ここからが本題である。本学部では、2020年度までは「ICTリテラシー」の授業があったが、他の授業を優先するために、2021年度の新カリキュラムで廃止された。この授業の内容の学習が不要ではなく、自分で学びなさい、という意味である。
本学部の入試では数学が選択科目なので、日本の高校出身者の場合、文系クラス出身者が多いと思われる。授業では、文系だからコンピュータは苦手と言った学生が何名かいた。しかし、コンピュータを使うために微積分などの理系数学は必要ない。ただし、数学で培われる論理的思考や自分で調べて解決する努力は必要である。統計は高校レベルの知識でも卒業研究で役立つ。もし、プログラミングに挑戦したいなら証明問題で論理を学んでおく。
以下にコンピュータに関して学んで欲しいことを優先順に述べる。
- タッチタイピング [3]
- 適切なキーワードの組み合わせで、英語の情報を含め必要な情報を検索すること
- ワードプロセッサ (MS Word等)
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- スタイル (表題、見出し1、見出し2など) の使用
- 図、表などに番号をつけ、本文で参照
- 章や節の番号を自動でつける (見出しレベルと連動)
4.表計算ソフトウェア (MS Excel 等)
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- セルの絶対参照と相対参照、他のシートのセル参照
- 簡単な計算式の活用 (SUM、AVERAGE、MAX、MIN、COUNTなど)
- 統計関数 (四分位数、VARなど)
- 図示 (グラフ)
5.無料クラウドサービスの活用 - Google Drive、iCloud Drive等
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- 自分の異なる機器でのデータ共有 (PC、スマートフォン)
- 知人とのファイル共有 (大きなファイルを渡す)
- 文字認識、自動翻訳、音声入力 (Google)
まず、キーを見ないで英文入力を練習して1分あたりの入力ワード数を数え、マッスルメモリー [4] にいれる。英語の文を考える速度に遅れないように20ワード/分以上を目指す。なお、現代ではキーを見ないでタイプすることを「タッチタイピング」と呼ぶ。
ワードプロセッサはレポートと卒業論文で何10回も使うので、その都度フォントのサイズを調整するよりも、スタイルを使って書いた自分のレポートのテンプレート (決まった様式) を使う方がはるかに効率がよい。
表計算ソフトウェアは正しくつかうと住所録やデータの整理と可視化に役立つ。プレゼンテーション・ソフトウェアは、特に教えなくても使いこなす学生が多いので内容に集中すればよい。
以上の内容をキーワードの組み合わせで検索して、必要な情報を収集するとよい。Office操作の教科書を買う場合は、特にWordのスタイルや参照の内容を含むものを選ぶとよい。
カタカナ英語の功罪
コンピュータを使っていると英語由来の用語が多数出現する。本学部の学生は一般的に英語が得意なほうであるが、英語が起源のICT用語の理解は苦手な様子である。その原因の一つがカタカナ用語である。
外来語をなんでもカタカナにして日本語に持ち込むことには、だれにでも読めるという利点があり、大学生用の教科書が日本語で読めるという他国では少ない母国語での高等教育が可能である。
しかし、カタカナ用語の中にはもとの英語の発音とかけ離れたものがあり、さらに、和製カタカナ英語も多い。たとえば「パソコン」は和製である。Personal Computerは長いのでPCと言えばよい。ただし、北米ではPCはWindows PC、MacがApple PCの意味と解釈されることが多い。
つまり、和製カタカナ英語を区別し、英語由来のカタカナ用語、頭文字用語は英語のスペリングを調べて意味を理解すべきである。たとえば、HDD、SSDはそれぞれ Hard Disk Drive、Solid State Drive で構造の違いが英語の意味からわかる。
理工系学生もゼミに配属されたら指導教員から英文資料を与えられるので英語が苦手では済まない。ただし、技術的内容の英文は内容は専門的であっても、構文が平易で、論文等の構成も標準化されているので読みやすい。一般社会ではカタカナ英語が日常生活での英語の必要性を下げる大きな要因であろう。
おわりに
理系人間らしく、長々と細かいことを書いた。自分で調べることが基本ではあるが、コンピュータで何ができるかがわからないと、適切なキーワードが見つからないことが多い。そんなときは先生など、コンピュータに詳しい人に相談するとよい。本学には「情報センター」がある。ただし、コンピュータに詳しい人でも日常使っていない機種やソフトウェアに関する質問には、すぐに回答できない。慣れると、検索と情報の取捨選択が速くなるので、他人に教えることが自分のスキル向上につながる。筆者が日常使っているのはLinuxでWindows 10とMS Officeは授業のためにしか使わない。しかし、教える立場になると知らないでは済まないので頑張って調べて覚えた訳である。
参考URL (クリックできない場合は検索で)
[1] 藍月 要, 文系より冷酷と勘違いされる「理系人間」の悲哀 - 「あまりに正確すぎる態度」は人のウケが悪い, 東洋経済オンライン, 2020/08/29, (https://toyokeizai.net/articles/-/358215).
[2] リベラルアーツガイド,【文系・理系とは】日本や海外の区別と歴史的な変遷をわかりやすく解説, 2021/2/22更新, (https://liberal-arts-guide.com/arts-and-sciences/).
[3] パソコン教室パレハ, ブラインドタッチ (著者注: タッチタイピング) の習得期間はどのくらい?実は1日で正しくやれば習得可能なんです!, 2021/1/26, (https://pcacademy.jp/typing-6).
[4] lifehacker, マッスルメモリーの鍛錬は「量の質にこだわる」のがポイントらしい, 2011/5/21, (https://www.lifehacker.jp/2011/05/110510muscle-memory.html).