南山大学 国際教養学部 Faculty of Global Liberal Studies

深めて!南山GLS 学生の活躍 GLS教員リレーエッセイ

第2回 GLS 教員リレーエッセイ 森泉哲 学科長

2021.07.29

「オープンキャンパスを無事に終了して―組織と個人の関係性―」

森泉 哲

 先日オープンキャンパスが開催され、模擬授業のほか、相談コーナー、学生企画による学びの紹介などを本学部としても行い、多くの高校生や保護者の方々に南山大学そして国際教養学部への理解を深めていただけたのではないかと思い、現在は安堵している。

 オープンキャンパスは本学部としても一大イベントの一つである。私は学科をまとめるという立場から運営に関わり、4月から準備を進めてきた。学内ではオープンキャンパス全体の企画・運営を行う事務部門と連携をとり、模擬授業担当教員との調整、また学生企画では学生との橋渡しになり、企画を進めた。事務部門、教員、学生などの思いや期待などのズレは当然あるので、情報共有・意見交換をするなどして進めたが、改めて感じたのは、目標にむかって複数の組織と組織内の個人がどのように関わっていくのかについて考えていくことの重要性だ。

 個人と集団の関係性に関しては、私の関心領域である社会心理学で扱うトピックの一つでもある。いくら優秀な個人を集めてもチームとして良い成績が残せないという逸話をよく耳にするように、個人の能力の総和が集団のパフォーマンスとイコールにならないことは比較的広く知られており、そこが社会心理学の研究対象でもある。大雑把に言ってしまうと、集団状況では個人や対人状況とは異なる心理的プロセスが生じることによって、集団での達成度が個人の総和よりも低下してしまう状況も発生してしまう一方、個人活動では決して出せなかった斬新なアイデアが集団では生まれてくることもある。前者をプロセス・ロス、後者をプロセス・ゲインと言う。

 折しもオリンピックが開催されているので、オリンピックの水泳競技を対象とした興味深い論文があるので、ここでそれを取りあげながら、個人と集団の心理的プロセスを考えてみたい。Hüffmeier Hertel (2011) は、北京オリンピックの100mと200m自由形の準決勝まで進みかつ団体競技のリレーにも参加した21か国64選手(男女問わず)のデータを分析した。個人競技の場合と団体でリレー方式の場合でのタイムの違いを測定したところ、第1泳者では、その違いは見られなかったものの、第2泳者から第4泳者では、個人競技時のタイムよりもリレー方式時のタイムのほうが速くなり、しかも第4泳者(アンカー)に限っては、第23泳者と比較してタイムの伸びは顕著であったという。この違いが生じた理由を、Hüffmeierらはチームに対する動機づけの高まり(モティベーション・ゲイン)と説明している。オリンピック選手であれば日頃から相当ハードなトレーニングをしており、リレー場面において泳力(能力)が高まったということではなく、チームに対して貢献したいという強い動機づけがこのタイム差をもたらしていると考えられる。つまり、今回の結果は、集団時の心理的プロセスが効果的に働いたことを示している。(一方、今回の結果とは異なるが、集団状況がパフォーマンスに負の作用を与える場合もあるだろう。)

 日常生活では、私たちは家族や大学、企業、部活動など様々な組織や集団と関わりを持っており、その中で個人のスキルや能力が必要とされている時もあれば、組織全体としてよい結果を出すことが求められている時もある。(もちろん、その両方という場合もある)。日常の仕事は上記で示したようなスポーツとは異なっており、その状況はより複雑であり、達成度や場面への解釈の仕方も様々あり、何が「良い」のか唯一の正解があるわけではないだろう。だからこそ、個人と組織・集団の関係性やその複雑性を場面に応じて見つめ直し、より効果的な関わり方を絶えず考えていくことが大切なのではないだろうか。

Hüffmeier, J. & Hertel, G.(2011). When the whole is more than the sum of its parts: Group motivation gains in the wild. Journal of Experimental Social Psychology, 47, 455-459.

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