深めて!南山GLS 学生の活躍 GLS教員リレーエッセイ
第1回 GLS 教員リレーエッセイ 森山幹弘学部長
2021.07.16
「おおらかなオンライン講演会 インドネシア」
森山幹弘
つい2週間ほど前、バンドンにあるインドネシア国立イスラーム大学スナン・グヌン.ジャティで講演を行った。もちろんこんな時期でありオンラインでの講演である。スピーカーは3名から成り立ち、西ジャワの主要な民族集団である「スンダ人の政治思想の実体化」というのがテーマであった。私の専門性から言うと、イスラームのコンテキストも政治思想も少し外れてはいるものの、歴史的なスンダ人の思想という点について何らかの貢献ができると自分に言い聞かせて参加させていただいた。他の2名がそれらのテーマについての専門家であったので聴衆の皆さんのある程度の満足感はあったかと思われる。とりわけ、別の地方にあるイスラーム大学の学長でありかつ伝統あるイスラーム教育施設の主宰者の子孫でもあるキヤイ(イスラーム導師)が、まさに説法のようなありがたい講演(講話)をしてくださったので全体としてはまとまったものとなった。
昨年来の新型コロナ感染症の世界的な広がりの中で、このようなオンラインでの講演会が、インドネシアではどんどん増えてきている。昨年度だけでもインドネシアの津々浦々の4大学から創立記念式典、国際シンポジウム等での講演依頼があり、その数は6回を数えた。私としても現地へ行く必要がないことから引き受けやすいこと、招聘する大学も航空運賃を負担する必要がないことから「気楽に」依頼してくるように思われる。コロナ禍をチャンスと捉えて世界の研究者にオンラインでの講演依頼をどしどしと申し込んでいるようであり、そこにインドネシアの大学のしたたかさを感じる。
もう一つ、インドネシアならではの特徴は、オンラインの講演会などの実施が非常にリラックスしていることである。参加者にはミュートを呼びかけているものの、忘れている人が必ずいて、その人がスマホで参加している場合には、乗合バスの中やバスターミナルにいる様子が聞こえてくる。家で参加している場合には、鶏の鳴き声や子供の声、赤ん坊の泣き声なども聞こえてくる。これには最初は当惑したのであるが、慣れてくるとそんなものかと思えるようになり、このインドネシアのおおらかさがかえって心地よくもある。日本のオンラインのイベントや講演会では厳格な運営をしようとする雰囲気がひしひしと感じられ、そんな運営とは実に対照的である。開始時間も予定通りに始まることはほぼ皆無である。今回の講演も20分ほど遅れた。「ゆるい」とも言えるが、このようなリラックスした雰囲気だとこちらもリラックスして余裕を持って話ができるという利点もある。もちろんシンポジウムでの議論は真剣に行われ、質疑応答も非常に盛んである。細かいことには鷹揚である学術的なイベントの運営の中で、本当に大切なことは何なのかを考えさせられる。奇妙とも言える日本の厳格さは、力の入れどころを間違っていて実質を取りこぼしていることもあるのではないか。
目下の世界的なコロナ禍ではインドネシアへは当分は行けそうにないが、このオンラインの運営から伺えるように、インドネシアという国は私にとって精神的にほっとする場所である。杓子定規にルールに従うことを求める日本の日常に疲れた時には尚更、インドネシアが恋しくなる。