教員エッセイ
「アートな(?)幸せ」 2022.5.20 伊東 留美
2021.02.22
「幸福なんてものは主観ですから。客観的な幸福なんてものはないですよ」(篠田、2021, p. 99)
変なタイトルから始めましたが、皆さんは、篠田桃紅(しのだ とうこう;1913-2021)さんという方をご存知ですか。1世紀以上生きた美術家です。小さな頃に書の才能を見出され、半ば独学で書を学び海外で才能を開花させた女性でした。昨年、あるラジオ番組で彼女の著書、『これでおしまい』(篠田桃紅、2021、講談社)という本が紹介され、先日やっと読み始めました。上に書いた言葉は、その本から引用したものです。
篠田氏は4つの時代(大正・昭和・平成・令和)とともに、大きな価値観の変化の中で、しなやかに自身を生き抜いた女性です。大正時代に中国で生まれ、明治時代の価値観を持つ親に育てられ、儒教や漢学の価値観を幼い頃に躾けられ、西洋建築の家に住み、西洋化された食生活に親しみ、昭和時代の戦争を体験しました。彼女の父親は女性の幸せは結婚と考える方だったそうです。彼女は女学校卒業後、お見合いをして結婚するという当時の女性が期待される道を選ばず、自立の道を書に託し、書道の先生となり、そして芸術家となりました。書で身をたて自身の人生を書と共に生きた方です。
『これでおしまい』の中に書かれた彼女の言葉は、彼女の生き様を反映しているようです。例えば、「人生は自ら由れば最後まで自分のものにできる。」「自由はあなたが責任を持って、あなたを生かすこと。人に頼って生きていくことではない。あなたの主人はあなた自身。あなたの生き方はあなたにしか通用しない。」という言葉は現代社会を生きる我々が聞いてもハッとさせられます。
最期に、この時代の中で私が共感した言葉です―「戦うってことをスポーツに置き換えた人間は本当に頭がいい。人々が戦うことを楽しんでくれるんだから。誰も死なないし、みんな楽しんで観ている。」もう一つ、私の価値観を代弁してくれる言葉です―「誰かの絵を負かして自分が一番になろうなんて、そんなんじゃないですよ。どっちが勝ったなんて決められない。それがアートですよ。」誰もが芸術家であり、その人にしかできないものをつくりだすことを彼女は身をもって理解されていたのでしょう。私の活動(アートセラピー)を後押ししてくれる言葉です。