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浦上先生が執筆された論文が学会誌に掲載されました
2024.11.20
本学科の浦上先生が執筆された論文「キャリア講演会の効果を把握する方法の比較検討」が,日本キャリア教育学会の『キャリア教育研究』誌に掲載されました。
以下は,浦上先生による論文紹介です。
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教育や支援に携わる者は,「何を」伝えるか(サポートするか)とか,「どう」伝えるか(サポートするか)という点を気にするのですが,同等に,「教育や支援が有効に作用したのか」という点も,とても大事になります。
私の研究的に興味があるテーマのひとつにキャリアの問題があるのですが,キャリア支援を行う場合も,もちろん,それが参加者にとって有益なものであることが一番大事なことです。そのため,企画した支援が「有効に作用したか」という点の確認がとても重要なのですが......,ここにこの研究を行った根源的な疑問,課題意識がありました。
少し具体的にお話ししましょう。企画が「有効に作用したか」という確認をしようとするとき,よく使われるのが,事後に「今回の企画はあなたにとって有益でしたか?」と問うことです。これに,「有益だった」との回答があれば,実施者としてはホッとできるのですが,本当に確認すべきことはそこか?という問題があります。
キャリア関係の企画では,その目的は,何かを伝えて,参加者の中に何らかの変化を起こすことです。企画の目的にそった変化が生まれてこそ,企画の有効性が確認できます。これを確認しなければ,本当の意味でホッとはできません。
そこで気になるのが,「今回の企画はあなたにとって有益でしたか?」という質問に対する回答は,参加者自身の中に生じた企画目的に沿った変化を,適切に代表しているのかという点になります。適切に代表していれば問題はないのですが,もし適切でなければ,「今回の企画はあなたにとって有益でしたか?」という質問は,企画の有用性を判断する材料にはできません。参加者に回答の負担を強いるだけの無意味な質問になります。
こういう疑問,課題意識があったのですが,実際にいろいろな支援を見ていると,参加者の多くは,企画の善し悪しを,「おもしろかった」とか「つまらなかった」,「眠かった(?)」といった,参加中の自分の感情をもとに判断しているような気がしていました。こういう参加者の感情は,企画者が気にするポイントでもありますが,企画の意図とはまったく異なった次元で評価が行われる可能性があることも示しています。
もしそうならば...,「今回の企画はあなたにとって有益でしたか?」という質問に対する回答は,実は企画目的に沿った変化を代表してはおらず,企画中の感情に左右されるだけなのではないか,とも考えられます。これが当たっていれば,この質問を使っても企画の有用性は把握できないという懸念がますます高まります。
そこで,実際はどうなのかと実施してみたのがこの研究になります。学科主催のキャリア講演会(本サイトでも紹介されている,この時のものです。協力してくれた参加者の皆さんに感謝)を対象として,「今回の企画はあなたにとって有益でしたか?」といった事後の判断と,企画意図に沿った変化を把握できる2つの方法(プレテスト−ポストテストと,回顧的プレテスト−ポストテスト),そして講演会中に生じた感情を指標とした調査を行いました。
詳細は論文を見ていただきたいのですが,講演会は確かに参加者に変化を生じさせていました! 講演者のお二人に感謝です。一方,上のような問題意識に関しては,「今回の企画はあなたにとって有益でしたか?」といった質問に対する回答は,講演会中に生じた「あこがれた」などの肯定的な感情,「つまらない」などの否定的な感情の生起と関連していました。しかしながら,企画意図に沿った変化とはまったくと言ってよいほど関係していないという結果でした。この点では,残念ながら(?),懸念は当たってしまいました...。(ちなみに,講演会中に生じた感情と企画意図に沿った変化も関係しない)
今回の結果からは,事後に「今回の企画はあなたにとって有益でしたか?」という質問をしても,またその回答がたとえ肯定的/否定的であったとしても,それを「企画が有効に作用したかどうか」の確認には使うべきではない(使えない)といえます。 プレテスト−ポストテストや,回顧的プレテスト−ポストテストといった変化を把握できる方法を使わなければ,それはわからないということが支持されました。
このような結果なのですが,私にとっては,自分の中にあったモヤモヤした懸念を晴らすことができたともいえます。私にとって研究は,自分の中のモヤモヤをはっきりさせるための活動なのです。
研究は自分の興味や関心にそって行えばよいのですが,「興味」とか「関心」というのは,何も「おもしろそう」というポジティブな感情をもつ対象というわけではありません。「何か変だ」,「おかしい」といった,いわゆるネガティブな感情を持つ対象の方が多いように感じます。
自分自身を含め,社会に対してクレームや注文を出したい人には,それを研究してみることをおすすめします(...?)。