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研究プロジェクト論文が紀要掲載論文に!
2024.09.05
南山大学の紀要のひとつ,『アカデミア 人文・自然科学編 第28号』が,機関リポジトリで公開されました(ここから目次が閲覧できます)。
そこには,本学科所属の教員が執筆したものがいくつか掲載されています。
ここでは,そのひとつ,
高校生の探究学習と教科学習における興味の相互作用―Learning Bridgingの調整効果に着目した縦断的検討―
を,執筆者でもある解良先生が紹介します。
(タイトルをクリックするとリンク先から閲覧できます)
研究の背景
この論文は,第一著者であり,本学科(教育心理学ゼミ)の卒業生でもある多賀花織さんが,2022年度に南山大学人文学部へ提出した研究プロジェクト論文をもとに加筆・修正したものです。
本研究は,学習指導要領の改訂に伴い2022年より高校で本格導入された「探究学習(『総合的な探究の時間』)」を取り上げ,「探究学習のもつ意味や,より良い探究学習のあり方について知りたい」という多賀さんの問題意識からスタートした研究でした。
この記事を読んでいる高校生の皆さんにとっても,身近なテーマではないでしょうか。彼女自身,高校時代にこうした探究的な学習に取り組んでいた経験が土台にあったそうです。
そして,数多くある学習動機づけ概念の中でも,多賀さんが特に関心をもった「興味の深化」という現象と,上記の問題意識とを結びつけています。
研究の目的
国語や数学などの教科学習で学んだことを探究学習に活かし,探究学習で学んだことを教科学習で活かす,といった,探究学習と教科学習の循環性(相互作用)に関する主張が,先行研究ではされていました。しかし,実際に探究学習を導入すると,そのような探究学習と教科学習のポジティブな学習ループが本当に生じるのか,といったことについては,日本の生徒を対象に実証的に検討した研究は見当たりません。
そこで本研究は,探究学習が進む中で生じる探究テーマへの興味の変化と,各自が探究で扱っているテーマに最も「近い」と感じる教科学習への興味の変化とが関連するのか検討しました。
とはいえ,単に生徒が受動的に探究学習を取り組んでいても,こうしたポジティブな循環は生じない可能性が考えられます。
そのため,本研究では,「生徒が意識して複数の場面における学習をかけ橋しようとする行為」として概念化されるラーニング・ブリッジングという学習行動にも着目しています。
具体的には,日頃から「様々な場面で学んだことをつなげよう」と意識する,ラーニング・ブリッジングを行う傾向が高い生徒において,探究学習と教科学習における興味深化の相互作用が特に生じやすいのでは,という仮説を立てて検証しました。
何がわかったのか
本研究では,探究学習に取り組んでいる高校2年生を対象に,5か月の間に計3回の調査を行いました。ご協力いただいた生徒の皆さんと先生方には,厚くお礼を申し上げます。
アンケート調査の分析の結果,仮説は部分的に支持されました。
まず,1時点目の教科学習への興味は,2時点目の探究学習への興味と結びついていました。つまり,(ラーニング・ブリッジングの高さに関係なく)全体的な傾向として,教科学習に対して興味を深くもつ生徒ほど後の探究学習に対して深い興味をもちやすいことが示されました。
一方,1時点目の探究学習への興味から2時点目の教科学習への興味という方向の影響については,仮説が支持されました。つまり, ラーニング・ブリッジングが高い生徒においては,探究学習への興味を深くもつほど,教科学習に対してもその後の興味が深まることが示されました。しかし,ラーニング・ブリッジングの低い生徒では,探究学習への興味と教科学習への興味との関連性はみられませんでした。
時点間によって異なる結果も得られたため,本研究の結果は慎重に解釈する必要があります。
しかし,上記の結果は,探究学習と教科学習における学習意欲(興味)の循環メカニズムの一端を実証的に明らかにした点で,一定の学術的な意義があると考えています。
さらに,探究学習を効果的に実践していくためには,教科学習の授業との結びつきを強調するような支援の必要性を明らかにした点で,教育実践に対しても示唆を含む結果だと思います。
最後に −これから研究をはじめようとする皆さんへのメッセージ−
本論文では紙幅の都合上,主要な結果の1つに焦点を当てて論文化しましたが,実はもとになっている多賀さんの研究プロジェクト論文は,A4で約80ページの大作です。紀要論文にまとめるにあたり,今回は省略した分析や議論の方が多いくらいです。
そのような内容の濃さや研究論文としてのクオリティの高さが評価され,彼女の卒業論文は,本学科の「優秀研究プロジェクト論文賞」を受賞しました。
...というと華々しく見えますが,論文の作成過程は決してスムーズに進んだわけではなく,他のゼミ生からもアドバイスを何度も求め,教員とも議論を重ねながら,〆切のギリギリまで地道に努力をした成果だと思います。
指導教員としては論文賞を受賞したことよりも,多賀さんが最後のゼミで「自分のこだわりが詰まった卒業論文を書くことができた」と,満足そうに語ってくれたことが一番嬉しく,印象に残っています。
ほどほどに取り組んでもガチンコで取り組んでも,「研究プロジェクト」として得られる卒業単位数は変わりません。
しかし,卒論に対して熱心に取り組んだ人ならば,きっとその論文を提出したときには大きな満足感や達成感,多様な知識面・スキル面での成長が得られるはずです。また,ゼミの仲間と協力して取り組めば,真剣な議論も雑談も,振り返った時にきっと良い思い出となるでしょう。
学生さんの熱意と工夫が込められた研究は,卒業論文であっても「これは素晴らしいな,面白いな」と感銘を受け,一人の研究者として刺激を受けます。
ぜひ,学科生の皆さんには,自分なりの「こだわり」を持って,仲間や教員とともに楽しく研究に打ち込んでほしいと思います。そして高校生の皆さんには,こうした研究活動に取り組めることをぜひ楽しみにしながら,大学へと進学してほしいと願っています。
(解良)