教員コラム 総合政策学専攻
海面上昇の影響で表層侵食が進むマングローブ林(総合政策学 藤本 潔 教授)
2025年04月18日
温暖化に伴う海面上昇によって、潮間帯にのみ生育することができるマングローブ林では、既に目に見える形で影響が現れつつあります。私が30年以上に渡って森林動態のモニタリング調査を行っているミクロネシア連邦のポンペイ島では、ヤエヤマヒルギ属からオヒルギ林に遷移した群落で顕著な表層侵食が進んでいます(写真)。
フィリピンからミクロネシアにかけての海域は、近年世界平均値(年3mm程度)を大きく上回るスピード(年10mm前後)の海面上昇が観測されています。この脅威に対し、地下部に大量の細根を生産することでマングローブ泥炭を蓄積できるヤエヤマヒルギ属の群落では、その能力を最大限発揮することによって自ら地盤高を高め、生き残りを図ろうとしているのに対し、その能力に劣るオヒルギ林では海面上昇に伴う引き潮時の侵食力の増大によって表層侵食が進みつつあるようです(Fujimoto et al. 2023a,2023b)。表層侵食の影響は海側ほど大きく、最大で40cm以上に達しています(Fujimoto et al. 2023b)。このまま海面上昇が続くと、立ち枯れや倒木被害が発生する可能性も指摘できます。ヤエヤマヒルギ属の群落も、ドローンを使った観察によると、樹勢が衰え、葉を落とした樹木も確認されています(Fujimoto et al. 2023b)。マングローブ泥炭の堆積による生き残り戦略も限界に近づいているのかもしれません。
マングローブ林は海と陸の正に境界に位置することから、満潮時には稚魚を始めとした小型魚類の隠れ家となると共に、多くのカニ類が生息し、干潮時にはエサを求めて陸上の動物たちも集まってきます。ポンペイ島で暮らす人々は、そこでマングローブクラブ(大型のカニ)を捕獲したり、作業小屋や家畜小屋を作るために必要最小限の木材資源を獲得するなど、持続的に利用してきました。その営みの場が、海面上昇という脅威によって存亡の危機に晒されているのです。温暖化の影響は、CO2の排出にはほとんど加担していない、このような小さな途上国で進みつつあるのです。一刻も早い、実効性のある温暖化対策が実行されることを望むばかりです。
参考文献
Fujimoto, K., Ono, K., Tabuchi, R., Lihpai, S. (2023a): Findings from long-term monitoring studies of Micronesian mangrove forests with special reference to carbon sequestration and sea-level rise. Ecological Research 38(4): 494-507. DOI: 10.1111/1440-1703.12346 (First published: 21 July 2022 by online).
Fujimoto, K., Furukawa, K., Ono, K., Watanabe, S., Eperiam, E. (2023b): Effects of sea-level rise on blue carbon stocks of mangrove ecosystems: insights from Pohnpei Island, Federated States of Micronesia. Carbon Footprints 2: Article No.15. DOI: 10.20517/cf.2023.12
左:表層侵食が進んだオヒルギ林、右:正常な状態(ミクロネシア連邦ポンペイ島)