教員コラム 総合政策学専攻
政治学の法則と理論(総合政策学 野口 博史 准教授)
2024年10月02日
近年、政治の法則性に関する研究が進み、若者ほど投票率が低い傾向は全世界的なものであること、汚職・腐敗の最大の原因が経済水準の低さであること、各国の民主度も経済水準・農業自営率・経済民営化率・識字率・高等教育進学率・都市化率によってほとんど説明できることなどがわかってきています。
一方、政権や大統領の支持率の変化などは、経済における株価の変動原因や、教育における学習時間と学力の関係とおなじく、政治においてきわめて重要な問題ながら、法則性、つまり原因と結果の関連づけは現状で不可能であることもわかっています。
他方で、戦争という現象は、歴史を通じて分析すると法則性がつかめませんが、1886年以降に時期を限定すると、その法則性をある程度確認でき、現在では、民主化・国際組織加盟・貿易拡大・同盟などを推進すれば平和の可能性を拡大できることがわかっています。
内戦の法則も、1960年以降に時期をかぎれば法則性が見えてきます。過去の内戦・低い経済水準・経済停滞・経済の天然資源依存が原因です。
国連平和維持活動も、1989年以降になると、紛争再発をふせぐ効果が現れるようになります。
時期を最近にしぼりこむほど戦争・内戦・平和維持活動の法則が把握できる理由は、社会が変化するものだからです。このため、政治学など社会科学においては、自然科学とことなり、過去に発見された法則は現状を説明できず、未来も予測できない可能性がつねにあるのです。
政治学など社会科学のむずかしさは、過去の研究成果にもとづきつつ、研究を累積的に発展させることができないとう条件がもたらしていますが、社会の変化には、経済発展・高学歴化・法の支配強化といった方向性があります。
現在では、社会の変化がヒトの遺伝子にあたえる影響もある程度、判明しつつあり、全世界的にみられる方向性のある社会の変化を、社会進化とよぶことが可能となっています。
社会進化という概念は、なぜさまざまな社会における法則に方向性が見いだされるのかを説明する手段、つまり理論です。
説明とは、演繹法や帰納法とことなり、厳密性にとぼしい推論方法ですが、ヒトのみがこの推論をたくみにあやつり、文明を築いてきました。
そして、そのような理論の発明は、変化する社会に応じたあらたな法則の発見にも貢献し、世界における紛争・差別・貧困などを抑制・縮小・消滅させてゆくことに貢献するでしょう。
政治学は、社会科学諸分野のひとつにすぎませんが、この領域における法則と理論の双方向的な発展は、人類の繁栄のみならず、地球生態系の長期持続にも貢献し得るでしょう。