教員コラム 総合政策学専攻
リーディングリストの思い出(総合政策学 佐藤 創 教授)
2024年03月15日
イギリスの大学にて修士コースを始めてまず驚いたのは、1回の授業において読んで来るようにという文献の量と質である。1学期あたり4つの科目を履修する仕組みであったが、その1つの科目について週に100分の授業が2回、Reading Weekと呼ばれる1週間の休みを挟んで、前半5週、後半5週、合計10週が1学期であった。そしてそれぞれの科目についてリーディングリストがあらかじめ配布され、1トピックごとに読んでおくべき学術論文がおおむね10本ほどリストされていた。1トピックを1週間(2回の授業)で終わらせていくような進度であったので、1つの科目につき10週で100本の論文を読むというような課題となっていた。しかもそれらは学部時代には接したこともなかった、それぞれの分野の一流雑誌に掲載された論文群であった。
まずリーディングリストにある論文を入手しなければならないが、PDFファイルにアクセスしてダウンロードするというようなことは今ほど広くは普及していなかったため、最初の数週間は図書館で延々とコピーした。自分の所属する大学の図書間に所蔵されていない学術雑誌の場合もあり、隣の大学の図書館に赴いたりと、この作業にあまりに時間がとられるので、次第にクラスメートと分担してコピーを集めるようになった。
リーディングリストに掲げられている文献を集めたら次には読まなければならない。1つの論文はおおよそ1万wordsなので、論文10本であれば10万words余り、本1冊と等しい量である。つまり1トピック1週間とすると、1週間で本1冊を読むような計算である。しかもこのような課題を課されている科目が4科目あり、単純計算では1週間で専門書を4冊読むのと等しいような量になってしまう。
結局、全部はとても読めないことがすぐに判明した。そこで、各論文のイントロと結論のところについては全部について読み、興味をもっとも引いた論文を3本くらい選んで、それらについては通読・精読するというような方法に収斂していった。それでも学期中は1日中机に向かっていたように思う。読む論文の数を絞ったとしても、個々の論文が大学院に入ったばかりの学生には読みこなすには容易ではないものばかりだったからである。
こうしたリーディングリストは、大学院レベルで求められる最低限のインプットを示すと同時に、それらを集め、読む方法を自分で体得していくということをも含めて、大学院レベルの最低限の学術的な訓練をさせるということなのだろう。少なくとも自分にとってはそういうものであったと今では考えている。