教員コラム 総合政策学専攻
「熟議の波」は日本にも(総合政策学 前田 洋枝 教授)
2023年09月01日
2020年6月にOECDは"Innovative Citizen Participation and New Democratic Institutions: CATCHING THE DELIBERATIVE WAVE"を公刊しました。直訳すれば、「市民参加と新しい民主主義の制度の普及――熟議の波をとらえて――」となります。1986年から2019年までに開催された、住民基本台帳などから無作為に選ばれた市民を参加者として、情報提供を受けた上で政策課題に関して熟議する事例を調査した報告書です。前田も含む日本ミニ・パブリックス研究フォーラムの有志は、日本の事例の情報収集・報告で協力するとともに、公刊された後は日本語訳し、『世界に学ぶミニ・パブリックス――くじ引きと熟議による民主主義のつくりかた――』として2023年春に出版しました。
実は、OECDが調査した国の中で最も「実施事例数の報告」が多かったのは、日本です。主な要因は、ドイツのプラーヌンクスツェレを手本に全国に普及した「市民討議会」の事例数が多いことが挙げられます。
また、近年では、2019年から2020年にかけてフランス、英国で相次いで国レベルで開催された「気候市民会議」(Climate Assembly)が、その後、英国国内の自治体やヨーロッパ各国でも開催事例が増えています。日本でも2020年秋に札幌市で実施された「気候市民会議さっぽろ2020」が初めて実施された後に、徐々に各地で開催されるようになり、2023年度は東京都の多摩市や神奈川県の厚木市、茨木県のつくば市などで開催されています。討議結果の提言を環境基本計画などに反映することを明示している事例も増えています。
総合政策学専攻を志望する学生さんが大学院で学び、自分の研究で扱いたい政策はさまざまかと思います。「もし自分が住民基本台帳から無作為に選ばれ、その政策をテーマとした会議に招待されたら」、「もし、研究者になった自分が市民の皆さんに対してその政策に関する情報提供をするとしたら」と想像してみると、新たな気づきがあるかもしれませんね。
左が原著、右が日本語翻訳版。出典は以下。
OECD (2020). Innovative Citizen Participation and New Democratic Institutions: Catching the Deliberative Wave, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/339306da-en.
OECD (2020). Innovative Citizen Participation and New Democratic Institutions: Catching the Deliberative Wave, 日本ミニ・パブリックス研究フォーラム(訳)(2023). 世界に学ぶミニ・パブリックス――地域を変える熟議民主主義実践ガイド―― 学芸出版社