教員コラム 総合政策学専攻
人類史上もっとも暑い年にUAEで開催されているCOP28(総合政策学 小尾 美千代 教授)
2023年12月04日
私の専門分野は国際政治経済学で、このところは気候変動問題を研究テーマとしています。ちょうど、このコラムを執筆している2023年11月30日から、中東のUAE(アラブ首長国連邦)が議長国となって、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)の第28回締約国会議(COP28)が2週間の予定で始まりました。UNFCCCには198のメンバーが参加していますが、この条約ではその名の通り「枠組み」しか決まっていないので、具体的なルールとして作られたのが2016年に発効したパリ協定で、195のメンバーが参加しています。
気候変動に関する国際制度には地球のほぼすべての国が参加していますが、UNFCCC発効から約30年、パリ協定発効から7年が経過した現在でも、残念ながら気候変動を緩和させる目処は立っていません。世界中の研究成果に基づいて、地球平均気温の上昇を産業革命以前(1850-1900)よりも1.5℃以内に抑えることが目標とされていますが、世界気象機関(WMO)によると、今年の世界平均気温上昇は約1.4℃になり、観測史上もっとも暑い1年になることが確実視されています(https://wmo.int/news/media-centre/2023-shatters-climate-records-major-impacts)。
パリ協定では、各国が2030年までの温室効果ガス(GHG)排出削減目標(NDC)を自主的に設定することになっています。NDCの達成は義務化されているわけではないのですが、目標達成の進捗状況を評価するグローバル・ストックテイクが5年ごとに行われることになっており、今回のCOP28で初めて実施されるため、注目されています。
NDCについては、すべて達成されたとしても気温は2.5~2.9℃上昇すると予測されており、残念ながら1.5℃目標達成にはほど遠い状況にあります。エアコンの室温設定では、「1.5℃」の違いはわずかかもしれませんが、地球全体の平均気温での話になると状況が全く異なっており、気温上昇が3℃以上になると社会として状況に対応しきれなくなることが懸念されています。ちなみに、産業革命前は「10年に1回」起こるような異常気象のうち、熱波については平均気温上昇が1.5℃になると「10年に4.1回」、2℃になると「10年に5.6回」、つまり2年に1回以上起こるようになると予想されています。
現状と目標がどれほど乖離しているのかについては、国連環境計画(UNEP)が毎年報告書を作成しています。先日発表された今年の報告書に掲載されている図1には、「現行の政策(青)」、「(技術や資金援助などの)条件なしでのNDC(オレンジ)」、「(技術や資金援助などの)条件付きでのNDC(赤)」の3つの予測(シナリオ)と、2℃目標(水色)、1.5℃目標(緑)の達成に向けた排出量との乖離(ギャップ)が示されています。世界のGHG排出量はコロナ禍で減少したもののすぐに元に戻り、2022年には過去最高の57.4ギガトンになりました。1.5℃目標達成には2030年時点でNDCよりも19~22ギガトンの削減が必要とされており、このギャップをいかに埋めるのかが大きな課題となっています。
地球には200近くの国がありますが、図2に示されているように、GHG排出量(累積)の80%は日本を含めたG20の国だけで占めており、地球温暖化の寄与度も73%となっています。脱炭素化の中心となる石炭や石油、天然ガスなど化石燃料については、「削減」を目指すのか「廃止」を目指すのかが重要な争点の一つとなっています。COP28でグテーレス国連事務総長は、化石燃料の「段階的な廃止」が必要と訴えました。
今年の議長国であるUAEは中東にあるため、産油国のイメージが強いかもしれませんが、GDPに石油産業が占める割合は約25%で、2021年には湾岸産油国で初めて2050年までのGHG排出量実質ゼロを宣言しています。その一方で、議長を務める産業・先端技術大臣のジャベル(S. Jaber)博士はアブダビ国営石油会社(Adnoc)のCEOでもあることから、「健康をテーマとする国際会議の議長をタバコ会社のCEOが務めるようなもの」との批判など、議長の人選をめぐって大きな議論を呼びました。ジャベル議長が逆にその立場を生かす形でどこまで脱炭素を主導できるのか、COP28での議論が注目されます。
図1:3つのシナリオでの世界GHG排出量と2030年と2035年の排出ギャップ
出典:United Nations Environment Programme (2023) Emissions Gap Report 2023: Broken Record-Temperatures hit new highs, yet world fails to cut emissions (again), Nairobi, p.XXI. (https://doi.org/10.59117/20.500.11822/43922)
図2 過去と現在の気候変動に対する国別寄与度
出典:United Nations Environment Programme (2023) Emissions Gap Report 2023: Broken Record-Temperatures hit new highs, yet world fails to cut emissions (again), Nairobi, p.XVIII. (https://doi.org/10.59117/20.500.11822/43922)