教員コラム 総合政策学専攻
不要な研究となることを目指す(総合政策学 三輪 まどか 教授)
2023年10月13日
私の研究は、狭く言えば、歳をとるにつれて認知能力が低下していく高齢者が、その人らしく生き、最期を迎えるためには、どのような法制度を構築すればよいか、というものである。そうした高齢者が、望むような医療や介護を手に入れられ、家族や親族間による争いに巻き込まれなければ、不要な研究である。
今から7年前、私は、後見人としての経験がある大分県内のソーシャルワーカーの皆さんにお手伝いいただき、高齢者と家族・親族がどのような場面で「対立」し、その原因は何かを調査した(科学研究費補助金26870689)。後見人とは、高齢者や障害者の認知能力が低下したときに、契約や財産管理などを本人に代わって行う、家庭裁判所によって選ばれた代理人である。
121例の回答中、最も多かった対立の内容は、家族・親族による金銭の使い込みの回収・調査をめぐる対立(25例)であり、次いで、遺産分割(18例)、病院・介護の事業所選び(12例)、医療・介護の料金負担(12例)であった。対立の原因は、後見人であるソーシャルワーカーから見て、本人・家族・親族の特性、財産の多さ・少なさ、親密さ・疎遠さ、制度・法律の熟知・無知がそれぞれ拮抗した数字となり、原因の特定には至らず、むしろ、問題の複雑さを露呈する結果となった。
また、対立の解消・緩和にいたった58名に、その要因について問うたところ、丁寧に説明して納得してもらったという「説明」が21例と最も多く、次いで、本人の死亡や家族・親族の引っ越しといった「事情変更」が9例、裁判所による調停や審判・裁判などの「法的対応」が8例となった。そして、自身の果たした役割について、16例が「他職種等への連携・つなぎ」と最も多く、次いで、制度の趣旨や法律内容の「説明」が11例、家族・親族の間でなされた話し合いに加わり、対話を促進し、お互いの利益を調整する「対話・調整」が10例であった。
実は、こうしたソーシャルワーカーによる介入は、高齢者本人の利益や人権を守るだけではなく、家族・親族、高齢者をとりまく人たちの利害調整機能を果たすことが知られている。近年、私が研究を進めているイギリスにおいては、こうしたソーシャルワーカーの役割が重視され、Social Work Lawという法分野も確立されつつある。この研究は道半ばであるが、日本においてもイギリスと同様、ソーシャルワーカーを中心に据えた制度を整え、活躍の場を確保することで、高齢者を支え、守ることができるのではないかと考えている。そして、いつしかこの研究が実を結び、私の研究が不要な研究となる日が来ることを願っている。
参考資料:三輪まどか「第4章 家族・親族間の争いと成年後見制度」『契約者としての高齢者』(信山社、2019年)135-153頁
当時何度も通った大分市。数年で街が様変わりし、驚愕したのも今ではいい思い出。
大分駅前の大友宗麟像(2015年5月撮影)。 大分市最古の商店街(ガレリア竹町)(2015年9月撮影)。