教員コラム 総合政策学専攻
大学院進学をためらっているみなさまへ (総合政策学 星野 昌裕 教授)
2021年12月16日
大学院進学をためらっているみなさまへ
このコラムの読者には、自分の研究テーマが社会から必要とされる時が来るのかどうか、つまり就職につながるかどうかに不安を抱き、大学院への進学をためらっている方が相当数いるのではないかと思います。学生時代、私も同様の不安を持っていましたが、いまから振り返ると、極めたいと思った研究テーマに取組んで良かったと思います。
私が中国の民族政策を研究テーマに選んだのは、学部生時代の1990年夏に新疆ウイグル自治区を旅した時です。そこに居住するウイグル族は、イスラム教を信仰し、ウイグル語を話し、風貌や食文化などの面でも漢族との違いが際立っていました。その経験から私は、社会主義体制をとっている中国が多民族多宗教な社会を如何に統治しているのか、これはいつか大きな問題になると考えて研究をスタートさせました。
しかし、2008年北京夏季オリンピックが開催される直前にチベット問題が世界的な話題を集めるまで、中国の民族政策に大きな関心が向けられることはありませんでした。研究テーマが社会からの要請を受けるまでに、約20年の歳月が必要だったわけです。それからさらに10数年がたち、現在は2022年2月の北京冬季オリンピックを前に、ウイグル問題が世界的な注目を集めています。このコラムを書いている2021年12月にはアメリカなどが、政府関係者をオリンピックに派遣しない「外交的ボイコット」を示唆していますが、中国側はこれに強く反発していて、ウイグル問題をめぐる国際的な軋轢はしばらく継続しそうな状況です。
いまみなさんが取組もうとしている研究テーマも、私のように社会から必要とされるまでに相当の時間を要するかもしれませんが、いつか必ずその時がきます。その時に備えた基礎研究のお手伝いができるよう、皆さんの入学を社会科学研究科でお待ちしています。
新疆ウイグル自治区カシュガルのエイティガールモスク(1990年)
ウイグルの人々(1990年)