教員コラム 総合政策学専攻
総合政策学専攻 三輪 まどか 教授
2021年01月29日
自分で選び、自分を生きる
私が大学を卒業した年は、金融機関が次々に倒産し、後に「就職氷河期」と言われた。ようやく決まった就職先は、流通系不動産会社の総合職であった。OL生活も板につき、入社2年半で主任になった私に突きつけられたものは、「女なのに」という言葉であった。当時、会社には、女性を積極登用しようとする経営層とそうでない現場の管理職がおり、私はその狭間に置かれた。耐えきれなくなった私は、「女なのに」がない世界へ逃亡した。私が一生懸命考えて絞り出した「女なのに」がない世界は、学問・研究の世界であった。
しかし、この世界には「女なのに」ではなく「女だから」が存在した。女性が女性を研究テーマとすることへの偏見、結婚により氏が変わることの不利益、育児・介護などのケアと研究との両立の難しさ等である。とはいえ、こうした偏見・不利益、困難さを克服する社会のあり方は、社会科学分野、とりわけ法律学にうってつけの研究テーマである。
私の研究テーマは、認知機能の低下により、意思能力が十分ではなくなった高齢者が、自分らしく生き抜くための法制度とはいかなるものかということである。高齢になると、お金や持病、介護のことなど、多くの課題に直面する。その課題は、高齢者本人だけではなく、そのまわりの親密な関係にある人たち(家族など)との関係性の中で解決せざるを得なくなる場合も多い。そのなかで、高齢者本人が何かを選び取ったり、自身が思うように生きることは難しくなる。だからこそ、そうした高齢者本人の意思を尊重するような制度が必要だと考え、研究に取り組んでいる。
ただ、この研究テーマの根底にあるのは、いわゆる社会的に弱者とされる人たちが、自分の意思で、自分がこうありたいと生き抜くための法のあり方である。いわゆる社会的に弱者とされる人たちは、置かれた状況は違えど、過去の自分であり、現在の自分であり、恐らく未来の自分であろう。だからこそ、私にとって、日々の研究は、常に自分事であり、自分に身近なこと、自分のそう遠くない未来のことである。そして、そうした気持ちで行った研究が、いつかどこかの誰かのためになれば、私自身の選択で、私らしい人生を歩めたと言えると思っている。