教員コラム 総合政策学専攻
総合政策学専攻 前田 洋枝 准教授
2020年12月01日
研究テーマに時代が追いつく!?
1994年、地元の広島で環境サークルの活動に初めて参加したのは、宮島での海岸クリーンアップ(漂着ごみを回収するだけでなく、種類別に数を記録し、クリーンアップ全国事務局に報告することで最終的にはOcean Conservancyにデータが集約され、改善提案に使われる国際的なボランティア活動)でした。これがきっかけで、そのサークルのさまざまな活動へのコミットメントにつながった自分の経験が研究テーマの原点です。環境ボランティアの参加の社会心理学的な規定因や参加の効果に興味を持ち、無作為抽出の市民の参加による熟議に対する参加の規定因などの研究にもつながっています。
約10年後の2005年の秋、大学院生だった私はドイツのボホムという町で環境心理学の国際学会に初めて参加し、海岸クリーンアップの参加者に対して活動への参加の規定因を調査した結果の研究発表をしました。当時のBiennial Conference on Environmental Psychologyの参加者はドイツ,オランダなどヨーロッパの研究者がほとんどを占め、国際学会としては比較的小規模。学会ロゴ入りマグカップが記念品を兼ねて一人1つ渡され、コーヒーブレイクではこのマグカップで飲み物をいただいたのも新鮮で、「さすが環境心理学の学会!」と感心したことを覚えています(日本の学会では休憩室で飲み物をいただくときは使い捨ての紙コップがほとんどなので)。
そしてさらに10年以上たち、近年では、海岸漂着ごみ、特にプラスチックごみへの人々の関心は高まり、世界的に対策が取られるようになりました。海に流出してしまったごみの量は膨大なため、解決にはこれから長い時間がかかりますが、確実に前進しています。市民参加による熟議については、Democracy R&Dという研究者や実践組織の世界規模のネットワークもできて前田も運営委員を務める日本ミニ・パブリックス研究フォーラムも加盟し、とても活発に情報交換や議論が行われています。
環境心理学の国際学会は2017年からInternational Conference on Environmental Psychologyに名称が変更され、参加する研究者の人数や国も大幅に増えています。直近の2019年にイギリスのプリマスで開催されたICEP2019では、市民参加に関するセッションは複数になり、プラスチックごみ汚染に対する態度や行動のセッションもあり、研究者の関心の高さを感じました。昼食会場で提供された食事は地域で生産された食材が使用されており全てビーガン対応、もちろんコーヒーカップなどは洗って再利用できる材質のもので、学会の運営においてSDGsがしっかり意識されていました。そんな中で、私は欧米の町には多くあるけれども、日本ではまだ十分ではないチャリティーショップの利用(不用品の寄付やリユース品の購入)の規定因を調査した結果を発表しました。今後また10~15年後に振り返る時、日本にもチャリティーショップが普及して持続可能な社会の実現に役立っていることを願うとともに、自分の研究が少しでも貢献できればと考えています。
写真左は宮島の包ヶ浦海岸(2019年6月に前田撮影。海水浴場でもあるため海岸は定期的に清掃されるが、波打ち際を中心に白い発泡スチロールの破片などが漂着している光景は、1994年から2000年まで海岸クリーンアップに参加していた当時とほとんど変わらない)。写真右は2018年に実施したチャリティーショップ利用者への調査で使用した回答回収用封筒や店内に掲示いただいた協力依頼など