教員コラム 総合政策学専攻
総合政策学専攻 久村 恵子 教授
2020年05月15日
人と人との繋がりの中で働くこととは
私の専門領域は「組織行動論・組織心理学」です。大学卒業後、民間企業での経験を経て、組織で働く人々が直面するキャリア発達上の様々な問題を解決するためには、どのような人間関係に恵まれることが重要なのかという疑問を抱き、その答えを見つけるために大学院の門を叩きました。その後、院生時代に1冊の著書 "Mentoring at work : Developmental Relationships in Organizational life"(Kram,1985)に出会い、日本の経営組織で働く人々の発達的支援関係で繰り広げられる行動、すなわち「メンタリング行動」を明らかにし、この知見を人材育成やストレス・マネジメントに活用するメンタリング・プログラムの開発とその効果評価に関する研究を進めてきました。この一連の研究の中で働く皆さんから「組織でキャリアを発達させるために上司やメンターとの人間関係が重要であると感じつつも、このような人間関係を築き、維持すること自体、すなわち「発達的支援関係の構築」そのものが負担」とする声を数多く聞いてきました。
確かに、私たち人間は「社会的動物」と言われるように、社会性の中で生きる動物であり、人との繋がりの中で「学び」、「癒やし」、「励まし」、「やりがい」などのポジティブな効果を得て、心のバランスを維持していることは周知の事実です。その反面、いつの時代も「職場の人間関係」はストレスの原因であり、近年のSNSなどのコミュニケーション・ツールの登場が新たな人間関係のあり方を生み出しており、便利さの一方でストレスの原因となってきています。さらに、「ホスピタリティ」や「おもてなし」を付加価値として重視する社会の動向は、職場内外の人に対して過剰な「気遣い」や「他者尊重(言い換えれば、自己犠牲)」を基準とする業務や行動を課しており、働く上での「人間関係」をめぐる問題はより複雑化しているといえます。
働き方改革の下、「働くこと」への意識が高まりつつあった中で、今回の新型コロナウイルス感染防止のための外出自粛要請により、人々は突然「テレワーク」や「在宅勤務」を余儀なくされ、オフィスで上司や同僚、顧客と対面することが当たり前であった日々から切り離されました。このネットを介した遠隔な人間関係は、これからの私たちの働き方や学び方、そして心の側面に、さらには生き方そのものにどのような影響を及ぼすのかを考えるキッカケにすべきと思いつつ、パソコンの画面に向かい講義をしている今日この頃です。