教員コラム 総合政策学専攻
総合政策学専攻 小尾 美千代 教授
2020年02月03日
アメリカ国内における「気候危機」への取り組み
私の専門分野は国際政治学です。特にグローバル化する経済と国際政治の関係や、人々の問題認識や規範に注目する社会構成主義(コンストラクティビズム)に関心があり、気候変動をめぐる国際政治を研究しています。最近は、世界第2位の温室効果ガス排出国でありながら、国際的な温暖化対策の枠組みであるパリ協定からの離脱を表明しているアメリカに注目して、アメリカ国内での取り組みについて主に研究しています。
2019年は気候変動問題が注目された年となりました。「気候非常事態(climate emergency)」がオックスフォード辞典の「2019年の言葉」に選ばれ、アメリカの雑誌『TIME』はスウェーデン出身の環境活動家であるグレタ・トゥーンベリさんを史上最年少(16才)の「2019年の人(2019 Person of the Year)」に選出しました。日本でも北陸新幹線車両基地の水没など広範囲で多大な被害をもたらした台風19号を含め、2019年に世界で発生した15の大規模気象災害の被害総額は1000億ドル以上になると言われています。統計が開始された1891年から現在までの年間平均気温の上位5位は過去5年間で占められ、2019年は2016年に次いで史上2番目となる見込みです。このような事態を反映して気候に関する言葉も変化してきており、例えばイギリスの新聞『ガーディアン』では「気候変動」ではなく「気候非常事態」、「気候危機」などの言葉を使用するように編集方針が変更されています。
アメリカ国内では、トランプ政権に対抗して積極的にエネルギーの脱炭素化を推進する取り組みが見られています。例えば、カリフォルニア州ではすでに電力の50%以上を太陽光や風力、水力などの再生可能エネルギーで発電しており、2045年までに発電に伴う二酸化炭素排出をゼロにする州法が制定されています。また、マイクロソフト、アップル、フェイスブックなど多くの企業も事業運営で利用する電力を100%再生可能エネルギーにする計画です。こうした活動は大学にも広がっており、少なくとも44大学で電力の100%(以上)がすでに再生可能エネルギーで賄われています。こうした大学には本学協定校のアメリカン大学、ジョージタウン大学、ノーステキサス大学も含まれています。例えばアメリカン大学のウェブサイトのトップページには"AU Is Carbon Neutral(アメリカン大学はカーボン・ニュートラル(=人為的活動による二酸化炭素の排出をしていない)です)"として取り組みが紹介されていますし、ジョージタウン大学には「持続可能性(sustainability)」専用ウェブサイトで取り組みが紹介されています(写真参照)。
このように、気候危機の特徴は、例えば核兵器開発や難民受け入れの問題などとは異なり、国家以外の多くのアクターが問題解決に直接関与することができる点にあります。そういった面にも注目しつつ研究を進めていきたいと考えています。
出典:https://sustainability.georgetown.edu