教員コラム 総合政策学専攻
総合政策学専攻 山田 哲也 教授
2020年01月14日
国際組織をなぜ研究するか
私の専門は、国際組織研究である。国際機構論、と呼ばれることも多い。
国際組織研究を定義するなら、「国際社会の組織化の歴史を辿り」、「国連のような個別の国際機構の内部組織や活動を探り」、「国際社会が直面する問題の解決に資するかどうかを見極める」、という3つのテーマから成り立つだろう。わかりやすい例をあげれば、難民問題や貧困問題に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)がどのような役割を果たしているか、や、国連開発計画(UNDP)・国際通貨基金(IMF)・世界銀行がどのような役割を果たしているか、といったことが挙げられる。
しかし、私の国際組織研究は、そういった「現代が直面する課題」を政策論的に取り上げるだけではない。というより、私自身は、あまり現代の課題を直接に取り上げることはしないようにしている(もちろん、無視しているわけではないし、現代の課題に関心を抱いている学生がいれば大歓迎する)。
私の最近の研究上の関心は、「組織化の歴史」、とりわけ、第一次世界大戦から第二次世界大戦の時期(いわゆる戦間期)に向いている。なぜ国際連盟は設立されたか、なぜ国際連盟は失敗したか、にもかかわらずなぜ国連が創られたか、といったあたりである。研究手法も、当時の文献や史料にあたる外交史的なものに変わりつつある。
一昨年、『国際機構論入門』(東京大学出版会)というテキストを出版した。テキストである以上、国際組織を巡る近年の議論であるグローバル・ガバナンス論にも触れはしたのだが、やはり自分で書いていて面白かったのは、歴史の部分である。すべてを網羅したわけではないが、当時の文献や史料を読みながら、長年疑問に思っていたことがだんだん明らかになり、歴史のパズルが組みあがっていくのは楽しい作業であった。
大学院で学ぶということは、究極的には「学問の最先端に立つ」ということであるが、これは「最近流行の理論を勉強する」ということとは少し違う。これまでに明らかになっていなかったこと、これまで通説と思われていたことに異を唱えること、それが「最先端」の本当の意味である、とつくづく思う。
国際組織研究にはまだ手付かずのテーマがいくつも残っている。自分自身の手でどこまで明らかにできるか自信はないのだが、可能な限り、先に挙げた3つの目的を達成できるよう、これからも愚考を巡らせていきたい。