教員コラム 総合政策学専攻
総合政策学専攻 山田 望 教授
2019年10月15日
文明論研究のすすめ
私の研究領域はキリスト教古代思想であり、研究対象は、古代キリスト教がいかにして「異端」を排斥してきたかという排斥メカニズムである。文献研究が主体であるが、古代社会の仕組みやローマ帝国の宗教政策、教会内外の諸状況もカヴァーしており、考古学等のフィールド調査も必要なので、正確な研究領域は、人文科学を基本とした広い意味での社会科学となろうか。
私のこれまでの研究活動の中で、最初の画期的な経験は、博論を基礎にした初めての単著『キリストの模範−ペラギウス神学における神の義とパイデイア』(教文館1997年)の出版であった。西方教会最大の「異端」とされたペラギウスに関する日本における本格的な研究書はこれが初めてであった。難解な「異端」研究で、更に某ネット通販A社では手に入らない設定となっており(出版社からの直接購入は可能)、売れないお蔵入り専門書と化していたところが、2011年になって突如、売れ行きが伸び始めた。ペラギウスを主人公とした歴史小説がオーストラリアで出版され、その日本語訳が出たことが原因だった。(ポール・モーガン著、『ペラギウス・コード』原書房、2011年)訳者の伊藤知子氏が、巻末で11頁も割いて私の著書の紹介を書いて下さったことも売れ行きとは無関係ではないだろう。
私にとって忘れがたいもう一つの経験は、2007年の夏から1年半、ヴァチカンの古代教父学研究所で在外研究できたことだった。35年振りに日本人で2人目の研究者として受け入れられ、大いに歓迎された。研究所はSt.Pietro大聖堂の広場から道路一つ隔てた場所にあり、大聖堂の耳を擘くような音で鳴り響く鐘の音を聴きながら、研究に没頭する毎日を過ごした。おかげで長年に渡る未解決問題に関わる発見をすることができ、その成果を2011年夏のオクスフォード国際教父学会で発表して以来、毎年のように国際ジャーナルに英文論稿が掲載されるようになった。
私は、西洋の研究者たちが悉く敬遠してきた「異端」研究こそ、日本人や東洋人が手がけるべきであると痛感している。西洋文明史において、歴史から抹殺されてきた人々の思想や活動の実態、その排斥のメカニズムを研究しようと志すならば、日本国内においてはもちろんのこと世界レベルの研究でも、努力すれば最先端の第一人者になれることは間違いない。
(上:研究所の窓から見える大聖堂のドーム)
(向かって左:拙著、右:2011年出版の歴史小説)