教員コラム 総合政策学専攻 総合政策学専攻
総合政策学専攻 平岩俊司 教授
2019年01月15日
『地域研究と総合政策学』
朝鮮半島を対象とする地域研究を総合政策学の観点から考えようというのが私の関心分野です。あらためて指摘するまでもなく地域研究とは対象地域の森羅万象についての知見を広めることを目指す学問領域といえるでしょうが、これを政策学と関連づけると日本との関わりが重要になってきます。すなわち日本としては朝鮮半島とどう向き合おうとしているのか、日本の朝鮮半島政策とはどんなものなのか、と。
30年以上前、私ははじめて韓国を訪れました。韓国のことを知りたかった私は韓国人の友人をたくさん作ろうとしたのですが、私と親しくなってくれる韓国人は日本への関心が強く、韓国のことを話してくれるというよりもむしろ日本について熱心に聞かれました。日本の政治は、経済は、文化は、社会は、まさに日本の森羅万象を知りたい、それが当時としては珍しい日本人留学生であった私に求められたことでした。朝鮮半島については関心を持ってそれなりに知識もあった私ですが、こと日本のこととなるとあまり考えたこともなく、韓国人と仲良くなるためには日本のことをちゃんと知っていないとだめなのか、と当惑し、これが本当の意味での国際化なのだろうかなどと考えさせられたことを思い出します。
もちろん国際化にはいろいろな意味があるでしょうし、世界市民のような考え方があるのも事実ですが、いざ私のような人間が国際社会との関わりを持つとき、自らの背景となる日本を抜きにした国際化というのを考えにくかったのも事実です。実際、国際会議で私に求められるのは、朝鮮半島情勢そのものの分析よりも日本の朝鮮半島政策です。日本人の専門家に聞きたいのはまさに日本の朝鮮半島政策なのです。もっとも、日本の朝鮮半島政策に関心を移してみると、あたりまえですが朝鮮半島政策だけが独立しているわけではなく、朝鮮半島政策はあくまで日本外交の一部に過ぎません。だからこそ朝鮮半島に関わりのない部分まで含めて日本のいろいろなところが見えてきて興味深いのも事実です。
地域研究とは結局は特定の地域を映し鏡として自らの姿を写すことである、とは私が学生の頃に教わった先生の言葉ですが、いまほどこの言葉を実感できることはありません。どんな鏡を選ぶかで自らの写る姿も異なりますが私は朝鮮半島という鏡を選びました。さて私には自分の姿がどう見えているのでしょうか、そんなことを考えながら朝鮮半島の森羅万象を考える毎日です。