教員コラム 経営学専攻
アニメと経営(経営学 赤壁 弘康 教授)
2025年09月01日
教員コラムも3回目となるとネタ切れですので、今回は私の個人的趣味に寄せて書きます。文中に個人名が出てきますが、本コラム内容についての誤謬の責は私個人にあります。
虫プロの鉄腕アトム、悟空の大冒険、ジャングル大帝、TCJのスーパージェッター、タツノコプロのガッチャマンなどのTVアニメをリアルタイムで見て育った私は昔からアニメが大好きで、20年以上前に初めて手に入れたブルーレイディスクレコーダーから現役機まで、そのHDDに録画されるのはほとんどが深夜アニメ放送とSF映画、ホラー映画でした。
さて、日本のアニメの礎を築いたのも「漫画の神様」手塚治虫氏でしたが、宮崎駿氏が手塚氏を痛烈に批判したように鉄腕アトムをあまりにも安い値段で請け負ったためにアニメ・クリエーターの人件費が低く抑えられてきたというのが通説で、長らく私もそう思っておりました。アニメ・クリエーターと制作会社の取引について公正取引委員会が令和7年に調査に乗り出したことも、この通説に沿ったもののように推測されます。しかし、実際はそれほど単純な問題ではなさそうです。
本学社会科学研究科博士課程を修了したプロジェクト研究員の武内幸生氏からアニメ制作会社ピーエーワークス取締役の仲村直人氏を紹介してもらい、竹澤直哉教授を含めわれわれ4名による日本アニメ産業の経営問題のファイナンスの観点からの研究が始まりました。
日本のアニメ業界では、独特の「製作委員会方式」が採用されています1 。製作委員会(幹事会社)はアニメ制作会社と制作委託契約を交わし、制作費を支出します。著作権を含めアニメに関する権利(二次利用権、海外版権等々)はすべて製作委員会に帰属することになり、制作したアニメに関して制作会社は何の権利も持ちません。多くが非上場の中小企業である日本のアニメ制作会社では、京アニなど例外的な数社を除くと、アニメ・クリエーターの多くは作品ごとにフリーランスとして制作作業をします。クリエーターたちは、自分の能力が発揮できそうな魅力的な作品制作に関わるため、敢えて「特定組織に雇用されることを由しとしない」傾向が強いのだそうです。このため制作会社間で、優秀なクリエーターの争奪戦が展開されているといいます。日本のアニメは海外でも売れるクール・ジャパンなコンテンツですが、背景にあるこうした複雑な構造を理解しないと、日本のアニメ産業の発展(制作会社の持続可能性やアニメ・クリエーターの地位向上)について、有効な提言ができそうもないということが漸くわかり始めてきたところです。
われわれのこれまでの研究成果の一部は南山大学経営研究センター・ワーキングペーパーとして発表していますので、興味のある方はそちらをご一読ください。単なる趣味がまさか研究につながるとは予想だにしていませんでしたが、人生、何が起こるかわかりません。
1 画像の書籍は、アニメ製作委員会に関して説明しているほとんど唯一の市販資料で、仲村氏に紹介していただきました。