教員コラム 経営学専攻
食品ロス問題と消費者意識(経営学 薫 祥哲 教授)
2024年03月01日
日本では2021年度に、本来食べられるのに捨てられてしまう「食品ロス」は523万トンでした。これは、同じ年に世界中で飢餓に苦しむ人たちに提供された食料支援量440万トンの1.2倍にも相当する量です。2015年の国連サミットで採択されたSDGsゴールに倣い、日本でも2019年の食品リサイクル法「基本方針」で、2030年までに2000年度と比較して食品ロスを半減させる目標が設定されています。下の図は、2021年度までの事業系と家庭系の食品ロス量の推移を示しています。近年、事業系と家庭系でほぼ同じ量の食品ロスが発生していますが、2020年度比では事業系の食品ロス削減の方が進んでいる事が分かります。
食品ロスは「もったいない」だけでなく、食品廃棄などで余計な環境負荷を引き起こしています。また、食品ロスを削減できれば、カロリーベースで38%と極めて低い日本の食料自給率を改善することもできます。では、なぜこのような食品ロスが発生するのでしょうか。鮮度や品揃えにこだわる消費者は、できるだけ消費期限や賞味期限の長い食品を選ぶ傾向にあります。一方、小売店側では、消費者に悪い印象を与える品切れ・欠品リスクを避け、豊富な品揃えによって購買意欲を高め、品質問題が起こらないように賞味期限切れ間近な商品が棚に残っているような事態は回避したいと考えます。このように、消費者と店舗側の双方のニーズやリスク回避行動の結果として、商品が過剰供給となり食品ロスが発生しているのです。
日本の食品業界では、賞味期限をもとにメーカーから小売店への納品期限と店頭での販売期限を設定する商慣習があります。製造日から賞味期限までの期間を3等分し、製造日から賞味期限までの1/3を過ぎた商品は小売店へ納品できず、2/3を過ぎた商品は店頭から撤去されるという、いわゆる「3分の1ルール」です。近年、食品ロス削減のためにこのルールを緩和する動きがありますが、3分の1ルールは諸外国と比べて特に厳しく、米国では納品期限が賞味期限の2分の1、フランスでは3分の2、そして英国では4分の3とされているのが一般的です。
「3分の1ルール」
食品スーパーでは、賞味期限の短い商品から売り切りたいため、より期限の長い商品を商品棚の奥に配置し、棚の手前から商品を取ってもらうようにしています(「てまえどり」)。しかし、より賞味期限の長い商品を購入したい消費者は、わざわざ棚奥の商品を選んで取る傾向があり、食品ロスの一因となっています。
食品ロスに関する消費者意識を調べ、消費者の特徴が食品ロスに関する行動や認識に及ぼす影響を分析するため、学生を中心とする113人にアンケート調査を実施しました。やはり、ほとんどの人が食品鮮度を重要視していて、賞味期限や消費期限を気にすると答えていました。また、賞味期限の短い商品を棚手前から取って購入する「てまえどり」をしていると答えたのはたった3分の1で、棚の中央や奥から商品を取っている人の方が多くいました。賞味期限や消費期限が迫った「見切り品」を購入したことがあるのは94%でした。興味深いのは、商品の鮮度(賞味期限)にこだわる人であるほど、見切り品に支払っても良いと考える価格が低くなっていた点です。これは、見切り品の価格が十分安くなければ、高くても正規の賞味期限商品の方を購入するという事です。
データ分析結果からは、(1)自宅での食品廃棄量を良く知っている、(2)食品ロスが環境に与える影響を考えた事がある、そして(3)「てまえどり」POP広告があれば手前どりを実行すると答えた回答者の方が、より積極的に見切り品を購入している事が分かりました。さらに、(1)見切り品の購入経験がある、(2)食品ロスが環境に与える影響を考えたことがある、そして(3)手前どり購入を実行している人の方が、食品ロスとなる家庭での食べ残しが少ない事も判明しました。そして、買った食品を食べることなく廃棄してしまうことがより少ないのは、(1)食品ロスが環境に与える影響を考えたことがある、あるいは(2)「てまえどり」POP広告があれば手前どりを実行すると答えた人でした。
食品ロス削減のためには、賞味期限はおいしく食べられる目安であり、期限を超えてもすぐ食べられない訳ではない事を理解する必要があります。また、消費期限については、事業者によって1未満の安全係数をかけて科学的根拠に基づいて計算された期限よりも短い期限で設定されています。消費者は過度な鮮度へのこだわりを避け、手前どりも含め、見切り品などの購入にも目を向けるべきでしょう。もちろん、無駄に食品を買いすぎたり作りすぎたりしないように心がける事が大切です。
注)より詳細については、薫祥哲(2023)「食品ロス問題と消費者意識-消費者属性と食品ロス認識や行動との 関係分析-」『南山経営研究』第38巻1号を参照してください。