教員コラム 経営学専攻
ブロックチェーンと会計(経営学 野口 晃弘 教授)
2023年06月15日
ブロックチェーンと言えば,ビットコインに代表される暗号通貨(仮想通貨・暗号資産)が,まず連想されるかもしれません。しかし,ブロックチェーンという仕組みあるいはそれを支える分散型台帳技術の活用の幅は非常に広く,発想の抜本的な転換を導くような,革新的な記録システムとして捉える必要があります。
暗号通貨の実用化当初は,信頼関係の有無にかかわらず誰でも参加できる仕組みであったため,信用の代わりに,桁違いの電力消費をもたらす記録の検証システムを必要としました。しかし,そのような問題は,信頼できる利害関係者に参加者を限定し,必要な範囲内で情報へのアクセス及び記録の追加が可能になるような制約条件を付けることによって,信頼でき,かつ,環境に優しいブロックチェーンを構築することも可能になっています。
許可なく誰でも参加でき,中央集権的な管理者を不在としなければならないという考え方に固執せず,信頼関係のある関係者が同じ記録を共有する新しい記録システムとしてブロックチェーンの本質を捉えることによって,その実用化が急速に進展しています。
たとえば,流通システムにおける詳細な記録を必要としていた食品業界や製薬業界に対しては,情報システム業界が早い段階からブロックチェーンのプラットフォームを提供し始めており,活用が進んでいます。知的財産権管理のための仕組みの構築も進められており,ネット上の取引を活発にさせる非代替的トークンを用いたブロックチェーンの構築も進められています。さらに中央銀行による通貨のデジタル化の準備も本格化しつつあります。融資の形態も,従来の金融機関とクラウドファンディングがミックスされたようなものに変化するかもしれません。
このように,さまざまなブロックチェーン上に共有・分散した状態で,取引に関する記録が行われることを前提に,会計記録の整理の方法についても,考え直さなければなりません。従来の簿記では,企業外部の情報と企業内部の情報を結びつける課題としては,銀行勘定調整表や監査手続における確認などが浮かんできますが,ブロックチェーン上に取引の原始記録あるいは証憑書類の置かれることが一般化すれば,そのような状況を前提に,企業の情報システムにおけるデータベースの構築及びその情報の引き出し方について考え直す必要がありそうです。
【参考文献】
坂上学(2016年)『事象アプローチによる会計ディスクロージャーの拡張』中央経済社。
寺岡篤志(2023年3月31日)「電力大量消費の仮想通貨 環境型へ移行、米国訴訟後も」『日経産業新聞』
7頁。
日本アイ・ビー・エム株式会社ブロックチェーンチーム(2020年)『あなたの会社もブロックチェーンを始めませんか?』中央経済社。