教員コラム 経営学専攻
環境対応が企業の資本構成に及ぼす影響(経営学 伊藤 彰敏 教授)
2023年11月15日
今日、環境問題が深刻化しており、企業は社会から環境に配慮した活動を行うよう要請されている。ここで一つの疑問が生じる。企業は、環境対応と利益追求のバランスをどう取るべきか?
一つの答えは、イノベーションにより環境対応と利益を一致させる製品・サービスを生み出すことである。しかし外部効果(環境対応コストは企業が負うが、そのメリットは多くの人に共有されてしまうという現象)を考えると、そうしたイノベーション投資は採算を確保しにくい。むしろ環境対応への要請はイノベーションを十分に誘発せず、追加コストとなって企業の財務状況を圧迫し、結果的に環境対応の原資を縮小させる可能性もある。
実際に何が起きているのか、日本の上場企業のデータを分析することとした。環境対応を迫られた企業で追加コストが増大した場合、オペレーティング・レバレッジが上昇し、その結果として資産ベータが上昇するはずである。資産ベータとは、CAPM(Capital Asset Pricing Model)のベータから財務リスクを除去した指標で事業リスクの程度を示す。加えて、企業が追加コストを長期的なものと認識すれば、財務破綻リスクを軽減するために負債を減らすであろう。
Ito and Nagasawa (2022)によれば、2015年に温暖化ガス削減量で合意したパリ協定直後、日本の製造業でそれまで温暖化ガスを多く排出していた企業では、資産ベータが有意に上昇するとともに負債比率が有意に低下した(Ito and Nagasawa (2022)から抜粋したTable DID Regression Analysisを参照)。この結果は、前述したイノベーションが不十分な状況と整合的である。
分析結果を踏まえ、我々はどう対応すべきか。第一に、企業による環境対応努力を促すため政府から企業への適切な補助金が必要かもしれない。第二に、排出量取引など企業が環境成果を速やかに資金化できる仕組みを拡充する必要があろう。
<引用文献>
Ito, A and K. Nagasawa, 2022, "Impact of the corporate response to climate risk on financial leverage and systematic risk", Applied Economics Letters.