教員コラム 経営学専攻
Rでゲーム理論(経営学 湯本 祐司 教授)
2024年04月15日
昨年度,十数年ぶりに学部のデータ分析の授業を担当しました。当時の授業ではSPSSを使っていたのですが,現在は大学が契約していません。いろいろと考えた末,結局エクセルに加えて統計ソフトRを利用することにしました(といっても学生がコードを書かなくても分析できるEZRをインストールさせました)。実は私はそれまでRを使ったことがなかったので,この授業のためにRの使い方を一から勉強しました。その甲斐あって授業はまずまずうまくいき,Rをいじるのも面白いなという思い,ちょっと調子に乗って夏休みにRを使って学ぶ二冊のテキストを読みました。一冊は機械学習のテキストです。ディープラーニングについてはまだ初歩的なことしか理解できていないので,今年の夏休みに時間がとれれば知人に教えてもらった別の本で挑戦しようかなと考えています。
もう一冊は昨年3月に出版された上條良夫・矢内勇生著『Rで学ぶゲーム理論』(朝倉書店)という異色のゲーム理論のテキストです。こちらは授業に活用できないかなという下心もあっての学習です。
お二人の提供するrgamerパッケージはかなりよくできていて,標準形ゲームでは,利得表(最適反応の表示可),支配戦略,被支配戦略の表示,最適反応曲線の描写,(混合戦略の範囲で)ナッシュ均衡を導出することなどができます。展開形ゲームでは,ゲームの木の描画やサブゲーム完全均衡を導出し,ゲームの木に均衡戦略を描写することができますし,展開形ゲームを標準形ゲームに変換して展開形ゲームのナッシュ均衡を導出することもできます。また,標準型ゲームを逐次手番ゲームに変換するのを支援するような関数も用意されています。マッチング問題も扱っていて,ボストン方式や受入保留方式によるマッチングを実行したり,安定マッチングかどうか判定する機能が用意されています。
これらの機能,特に利得表やゲームの木の描画機能は,講義資料を作成するのにとても役立ちそうなので早速活用したいと思っていますが,私が一番注目したのは,学習モデル等のシミュレーション機能です。ナッシュ均衡について,プレイヤーが完全な合理性を持たなくても繰り返し行われるような状況では経験・学習を通じて均衡戦略を選ぶようになるというような解釈がされますが,このシミュレーション機能を使えば,どんな行動ルールでそうなるかを履修者に示すことができます。信念学習,仮想プレイ,強化学習モデルなどいろいろ用意されていて,そこには各戦略を選ぶ確率が多項ロジット式で表されるような限定合理性も導入されています(なのでquantal response equilibrium を導出できる関数かオプションが隠されているのでは期待しましたが,見つかりませんでした)。その他にもそこかしこに行動経済学・行動ゲーム理論のかおりがするゲーム理論のテキストです。