教員コラム 経営学専攻
社会人と経営学を考える(経営学 余合 淳 准教授)
2022年07月01日
2022年4月に南山大学に着任いたしました。専門や人的資源管理論や組織行動論で,大学院では経営労務論を担当予定です。これまでも大学院で社会人や留学生を指導してきた経験がありますが,私のように経営学の一領域を専門とする場合では,実務経験のある社会人大学院生とのかかわりが特に印象的です。
思えば,私自身のこれまでのキャリアを含め,経営学を社会人の目線から考える機会が多くあったように思います。学部卒業後,銀行で2年ほど融資係を経験した後,仕事を辞めて大学院に入学した際に指導を仰いだのは,社会人経験が長く人事部長まで経験した先生でした。実務と理論の双方を大事にする研究室でしたので,社会人経験のある私には居心地がよく,馴染める場所だったのだと思います。さらに,私の所属した大学院では,研究者養成コース以外に,社会人向けのコースが併設されていたため,M1の時から社会人教育のお手伝いをしてきました。会社にいるときであれば上司のような年代の社会人院生と対等に(時には先輩として)議論に参加したことは新鮮な経験でした。もちろん,研究で調査をする場合にも,企業に協力してもらう過程で多くの企業人とかかわってきました。こうした社会人との交流を通じ私自身の研究テーマが確立されていったところは少なからずあるでしょう。
経営学は,社会科学の一員であり,特に私の専門は企業で働く人を対象とするものですから,こうした社会人との対話は非常に重要です。彼らが職場で直面している課題は,外部者である我々から見れば現実を理解する上での最も有用な情報源の一つです。ただし,研究の世界では,実務家が直面する現場で起きていることをあえて抽象的に捉えることも重要で,具体論だけでは物事の本質を捉えられないことがあります。時には,何十年も前の議論をあえて掘り起こし,現代の現象に当てはめて考えてみることもありますし,実在しない抽象的な純粋モデルを議論することもあります。社会人の持つ素朴な問題意識を,そういった先行研究の力を借りることで洗練させ,最終的に論理的な形(理路整然とした矛盾のない形)まで突き詰めることが出来たならば,そこでようやく企業の現場に起きていることの学術的な価値が見出せるのかもしれません。それは多くの社会人との交流を通じて,私自身が辿り体感してきた研究と教育の醍醐味でもあります。