教員コラム 経営学専攻
小売店舗の国籍が中国人消費者行動に及ぼす影響(経営学 南川和充 教授)
2021年09月02日
小売店舗の国籍が中国人消費者行動に及ぼす影響
これまで十数人の大学院生の皆さんといっしょに、流通・マーケティングを研究テーマに勉強をしてきました。2019年3月に修了した中国人留学生の修士論文研究のひとつを紹介します。
中国ではインターネット通販の利用が盛んで、自宅に居ながらにして中国人は世界中の商品を気軽に買えますが(越境EC)、一方で、(中国国内で購入できる商品であっても)わざわざ訪日して大量に買い込んで帰っていくという「爆買い」も見られました(コロナ禍の以前)。これは、中国では「店頭展示時には正規品であると説明を受けながら、実は受け渡し時に偽物を買わされる」といった中国人販売員に対する不信感や、日本では質の高い本物が購入できるというイメージを中国人がもっていることが原因の一つにあるようです。このような問題意識から、購入する小売店舗の国籍(中国か日本か)が中国人消費者の購買態度にどのような影響を及ぼしているか(原産国効果)を明らかにしようと、中国における質問票調査によって収集したデータに基づく分析を行ったのが、この修士論文研究です。
店舗の国籍に関しては、実店舗が立地している国、その店舗の運営企業の国籍、そして、店頭の販売員の国籍という3つの要因を取り上げました。3つの属性において各々2水準(日・中)の国籍が混在しているという「ハイブリッド」サービスの状況を想定しています。質問票の設問は以下のとおりです。
得られたデータからは、個々の要因は購買態度に対して直接に影響していないことが分かりました。そこで、3つの要因(立地国籍、企業国籍、販売員国籍)の各水準の組み合わせによって消費者の購買態度の得点平均値に差が見られるかどうかを分散分析によって検証しました。実際には図1のとおり、中国立地群内では、日本企業の場合は販売員の国籍の違いに有意な差はないが、中国企業の場合、中国人販売員ほど購買に対する態度の平均値が有意に高いことが示されました。すなわち、販売員の国籍は、小売店舗の立地国籍と態度の関係を調整していることが分かりました。また、図2・図3のとおり、企業の国籍(中国)×販売員の国籍(中国)と企業の国籍(日本)×販売員の国籍(日本)の場合は立地国の要因が購買態度に影響しています。つまり、消費者は地元(店舗の立地国)と同じ国籍の販売員から接客されるほうがより購買意欲が高まるのではないかということが示唆されました。
本コラムの内容について詳細は、2019年10月発行の孫飛揚・南川和充「小売店舗の国籍が中国人消費者行動に及ぼす効果―立地国・企業国籍・販売員国籍の交互作用―」『南山経営研究』第34巻第2号に掲載されています。