教員コラム 経営学専攻
研究テーマをいつ、どのように見つけるのか(経営学 安藤 史江 教授)
2022年02月01日
前回のコラムでは、その当時手掛けていた具体的な研究内容をご紹介しました。今回は、そういった研究テーマを、より限定すれば、大学院に進学してから取り組む研究テーマをいつ、どのように見つけるのか取り上げます。
大学院に進学するからには、進学前から「これを研究する!」と明確に研究テーマが定まっているのが理想、ではあります。大学院は大学学部とは本質的に異なり、自分で動き出さない限り一歩も進まないところですし、何よりも修士課程は2年間しかありません(もちろん、個人の事情に応じて延長はできますが)。言い換えれば、進学して2年に満たないうちに修士論文を完成させる必要があり、そのためには、可能な限り早く研究対象にアクセスし、問題意識の解明に不可欠な調査を実施することが求められるからです。事前に明確な研究テーマを掲げて進学した学生さんたちのスタートダッシュは目覚ましいものがあると、常日頃感じています。
一方で、明確な研究テーマがないと絶対にダメ、ということもありません。もちろん、漠然とした関心はあったほうが望ましいですが、よく知らないからこそ、(経営学専攻であれば、ですが)経営全般に対する知識を広く得て、その中から次第に掘り下げるテーマを見つけるというケースもあってよいと思われます。また、たとえ事前に取り組みたい研究テーマを決めていても、授業などで紹介されるさまざまな論文や、指導教員をはじめとする周囲の研究活動に触れるうちに、全く別のテーマに興味を覚える可能性も少なくありません。テーマは、人と同じように「出会い」でもあるからです。
実際、私が現在メインの研究テーマとしている「組織学習論」とは、大学院進学後しばらくたってから「出会い」ました。というのも、組織学習論という分野など、おそらく現在でもなお、研究者や実務を通じてよほど特別な関心を持つ人は別かもしれませんが、聞いたこともないという人が多数ではないでしょうか。少なくとも、にわか勉強をしてやっとのことで大学院の進学に漕ぎつけた私は、その存在すら知りませんでした。そのため、進学前の研究計画書は単に、面白そう!これならやってもいいかな?という程度で、現在のもう一つの研究テーマである「組織変革」で安易に作成していました。
しかしながら、進学後は授業で課された膨大な数の英語の論文を読み込むだけで四苦八苦する日々が続き、また、研究として組織変革を扱う難しさを初めてまともに認識し、途方に暮れることになりました。しかも、そのようなときに、指導教官(国立大学では指導教員ではなく指導教官と呼びます)から、そろそろ修士論文の研究テーマを確定させるようにと矢の催促があり、大学院生用の研究室でどうしようどうしようと思い悩んでいたところ・・・。
その研究室に転がっていた学内論文集に、何代か前の、一度だけ顔を合わせたことのある先輩(既に当時、大学教員になられていました)の論文が掲載されていました。それが組織学習論についての論文だったのです!
今から振り返れば、本当にいろいろと問題だったと反省するばかりですが、その論文をよく理解もできないまま、指導教官に恐る恐る「組織学習論にします」と伝えましたら、意外にもあっさりと「いいんじゃない」とOKが。そして、この研究テーマとはそれから20年以上のお付き合いになっています。まさに「出会い」だったと感じます。
もっとも、研究テーマが確定するのが遅くなればなるほど、遅れを取り戻すために倍速でその後の研究活動を進めなければなりませんから、早いに越したことはないのは先に述べた通りです。それでも、最初から可能性を限定せず、「出会い」を見つけに来るというのも、それはそれで味わい深いことに思えるのです。