教員コラム 経営学専攻
経営学専攻 南川和充 教授
2019年08月22日
企業公式SNSアカウントページの対話性は、ユーザーのブランド忠誠に影響を与えるか?
これまで十数人の大学院生の皆さんといっしょに、流通・マーケティングを研究テーマに勉強をしてきました。今年3月に修了した中国人留学生の修士論文研究のひとつを紹介します。
多くの企業がマーケティング・コミュニケーション活動の一環としてSNSを活用するようになってきています。企業にとってSNSページは、製品やブランドの情報提供やキャンペーンの告知を実施したりする手段だけでなく、ユーザーどうしはもちろんのこと、ユーザーが企業と楽しく対話ができることに特色があるといえます。
図1から図3は、中国ハイアール社のWeibo公式アカウントのページでの3つの例です。図1の下部は、あるユーザーが「私は料理が終わるたびに鍋を洗いたくない......@ハイアール いつ鍋を洗う機械が販売できるか?直接鍋を入れてしばらくすると綺麗になるのがベストだ......」と書き込んでおり、それへの企業からの回答(図1の上部)が「うちの食器洗い機は洗うことができ、しかも360度のノズルで洗います。」とあります。
図1 企業Weibo公式アカウントの例(Haier社)
また、図2ではユーザーが自分で撮影した写真とともに「ポルトガルのリスボン空港でハイアールを見た~リスボンで初めて見た中国産品~@ハイアール」と投稿し、そのユーザーの記事に対して企業はコメントは返答していないですが「いいね!」を押しています。
図2 企業Weibo公式アカウントの例(Haier社)
図3は、あるユーザーが、ハイアールが剑网三(じあんわんさん)というゲームに参加しグループを作ったことに対して、グループに参加するために面接するとき「ハイアールさん」との対話の写真を投稿したが、その記事に対するコメントを企業が書き込んでいます。このように、自社や自社製品ととくに直接関係ない話題についてのユーザー同士のコメントのやりとりにも企業が対等に参加しているものも見受けられます。
図3 企業Weibo公式アカウントの例(Haier社)
このような楽しい「対話性」が企業に対する愛着や絆を消費者に感じさせ、その結果、消費者のブランド忠誠がより高まるのではないかという仮説を質問票調査データによって検証しようとしました。調査では具体的にWeiboを想定して、中国の企業公式アカウントをフォローしている中国人消費者を対象にネットアンケートで回答してもらいました。
概念モデルは先行研究も踏まえつつ図4のように設定しました。企業公式アカウントがもつ対話性は、さらに、反応性(企業からの返信の質や適時性)、共感性(企業担当者からの気遣い、ユーザー個人の思考や感情に合わせた関心)、ラポール(暖かい雰囲気、親しい関係性、ユーモア感)という3つの概念で構成されるものと想定しました。ここで共感性はサービス品質評価研究、ラポールは臨床心理学の概念を参考にしています。
図4 概念モデル
共分散構造分析によって、まず、企業公式アカウントのこうした対話性が高いほど感情的コミットメント(アカウントへの愛着や一体感)が高まることが分かりました。そして、アカウントへの感情的コミットメントが高められると、企業のブランドに対する消費者の忠誠心がより形成されることが示されました。
本コラムの内容について詳細は、2019年6月発行のZHANG Runting・南川和充「企業Weibo公式アカウントのインタラクティビティがブランドロイヤルティに与える影響」『南山経営研究』第34巻第1号に掲載されています。