教員コラム 経営学専攻
経営学専攻 窪田祐一 教授
2019年07月01日
『デジタル変革と管理会計』
真のデジタル変革は,これからだといわれている。企業にとって,IoT・ビックデータ・AIの活用は,顧客価値を生み出し,ビジネスの生産性向上と収益拡大を可能にする。今後,ますます普及するシェアリングやサブスクリプションによるビジネスモデルも,これらの情報技術によって支えられている。
デジタル変革は,管理会計実践にも大いに影響を与えるであろう。企業の経営戦略の策定・実行を支えている管理会計において,デジタル変革はコストマネジメントとレベニューマネジメントの双方を進展させる可能性を持つ。マネジャーは,今まで以上に,会計によって価値を見極め,ときには価値を創出できるようになるのではないだろうか。
低コストを追究する日本のものづくり企業にとって,コストマネジメントの重要性は高い。製品が顧客に与える価値が機能性や信頼性などの物理的仕様によって決まる場合,同じ価値を持つ製品を他よりも安くつくることは競争優位につながるからである。そのため,各企業は,これまでも原価を作用させる要因(規模・範囲・経験や稼働率などのコストドライバー)を理解し,コストマネジメントを行ってきた。近年では,組織の壁を越えるサプライチェーンをも対象にコストマネジメントは実施されている。ここにデジタル変革が加われば,コストドライバーの解明はさらに進み,製品の設計見直しや工程改善が促され,効果的な原価低減が期待できるようになる。
他方,顧客に与える価値が物理的仕様では決まらないような製品やサービスを提供したり,低コストではなく差別化戦略を採用したりする場合には,とりわけレベニューマネジメントが重要となる。レベニューマネジメントは,売上増のために,顧客ごとに提供する製品・サービスの内容を変えたり,数量や価格をコントロールしたりする。固定収益・変動収益などとレベニュードライバーを識別することも肝要である。加えて,デジタル変革は,顧客価値を生みつつ,収益を増大させるレベニューマネジメントを可能にする。たとえば,シェアリングビジネスでは(顧客の求める価値は所有ではなく利用であるが),AIを活用し,顧客の利用状況(需給状況)に応じてリアルタイムに価格を変えることで収益を拡大することもできる。
ビジネスにおいて変革は常であるとはいえ,デジタル変革は管理会計の役割や実践に大きな変化を与えそうである。この変化により,管理会計に新たな概念や手法が生まれるかもしれないし,そこに産学連携の機会も見いだせる。管理会計の実務と理論の双方の進展が楽しみである。