教員コラム 経済学専攻
Veritasの光と影(経済学 湯淺 豊生 教授)
2026年09月15日
南山のキャンパスを歩きながら、ふと、かつて過ごした東海岸の古い街並みを思い出すことがあります。チャールズ川のほとりで、伝統的なレンガ造りと、水面を反射するモダンなガラス建築が美しく調和しているキャンパスです。私は1997年にハーバード大学のケネディスクールで修士課程を終えました。単位の半分はロースクールで取得するというイレギュラーな選択をし、とにかく必死に駆け抜けた濃厚な一年間でした。私が学んだプログラムは、半世紀にわたって世界各国から税制や税務執行、租税法のアカデミアを志す人々を温かく迎え入れてきた歴史を持っています。国籍も背景も異なる多様な人々が集い、議論を交わす懐の深さに魅了される日々でした。
そのキャンパスも決して無謬(むびゅう)の「正義の府」というわけではありません。私が多くのことを学んだロースクールは、近年、奴隷制との暗い歴史に由来するエンブレムの変更を余儀なくされるなど、過去の負の遺産と自己矛盾に絶えず向き合ってきた場所でもあります。だからこそ、近年のドナルド・トランプ氏をめぐる政治勢力との対峙や大学の混乱は、単なる「善と悪の衝突」としてではなく、より複雑な思いで胸に迫るものでした。歴史の光と影を引きずりながら多様性を守ろうとする大学が、排外主義的な政治権力の荒波の前で激しく翻弄され、ひどい目に遭う姿を、一人の卒業生としてただ心配しながら見守っていました。
激動の時代にあって、大学という場所が自らの過去や社会とどう向き合うべきなのか。遠く離れたこの地から母校を案じつつ、あの水辺の教室で過ごした日々に感謝を込めて、今も静かに関心を持ち続けています。