教員コラム 経済学専攻
ヤツが来た(経済学 西森 晃 准教授)
2026年06月05日
毎年,学部1年生を対象に「経済学のための数学」という講義を担当している。そこでは毎回宿題を出すのだが,今年度はいつもと少し様子が違う。何が?実は,宿題の出来が異様に良いのである。
問題は毎年変更しているものの,難易度はいつもと同じである。偏差値的にも,入学直後に実施される数学テストの結果的にも,新入生の学力がそれほど大きく向上したとは思えない(むしろ推薦入試合格者比率が上昇した分,数学の苦手な学生は増えているはずである)。それなのに,宿題の正答率が今年度に入って突然,しかも大幅に上昇している。中には少し意地悪をしてトラップを仕掛けた問題もあるのに,今年度の新入生の多くはそれすらも簡単に乗り越える。一体,これはどういうことだろう。もしかして,私は自分でも気づかぬうちにスーパーティーチャーとなり,その教育能力を飛躍的に高めてしまったのだろうか?
もちろんそんなことはない。原因は,間違いなくヤツである。いま,世界中の教育現場に混乱をもたらしている例のヤツ。そう,AIだ。
学生が自分で解いたものをAIにチェックさせた上で提出しているのか,それともいきなりAIに解かせたものを提出しているのかはわからない。でも,彼らの多くがAIを使っているのはほぼ間違いない。いつかは来るとわかっていたし,今までにもその傾向がなかったわけではないが,今年度は明らかに今までと違う。とうとうそのときが来てしまった。
実のところ,数学の得意な学生がAIを使う分には一向に構わない。むしろ積極的に利用すれば良いと思う。しかし,数学の苦手な学生が使うのは少々問題である。彼らに必要なのはまず反復練習である。自分の手を動かすこと,そして答えを出すためのプロセスを何度も繰り返すこと。ここをスキップしてしまうと思考の土台を築くことが難しくなる。しかし,AIと反復練習の相性は絶望的に悪い。そんな面倒なことをしなくてもAIが勝手に答えを出してくれるのだから,そりゃあ学生だってモチベーションを保つのが難しいだろう。
さて,どうしよう。最近はそんなことばかり考えている。とりあえず,私の方が何かを変えなければいけないのは間違いない。AI利用を前提とした授業の作り方。宿題の出し方。数学の得意な学生と苦手な学生への対応の違い。考えることはいろいろある。さて,どうしよう?
そうだなぁ,まずはAIにでも聞いてみるか。