教員コラム 経済学専攻
トランプ関税:文字通りの「相互関税」の効果は?(経済学 寳多 康弘 教授)
2025年08月01日
米国トランプ政権が2025年4月に発表した「相互関税」は、貿易を通じて経済に多大な影響を与えるとして大きな話題となっています。この発表後の各国の反応は、大きく異なっています。報復関税を課そうとする国から、関税を変更しない国、さらには関税を引き下げようとする国まであります。(例えばthe web of the Guardian <https://www.theguardian.com/us-news/2025/apr/03/donald-trump-global-trade-tariff-rates-by-country-breakdown-asia> を参照)。
トランプ相互関税の算出方法は、明示されていません。米国の貿易赤字の大きさ、貿易相手国の関税水準、生産の国内回帰、国内の雇用増加、国家安全保障、経済安全保障など、様々な要因によって政治的に決まっているようにみえます。そのように捉えてしまうと、考慮すべき要因が多すぎて、相互関税の効果を分析することはとても難しくなります。
そこで、本コラムでは、相互関税を「文字通りに解釈」したときに、相互関税がどのような効果をもつかを考えてみます。つまり、ここでの「相互関税」は、「貿易相手国と同等の関税を課すこと」と定義します。こうすることで、国際貿易論の標準的な枠組み(不完全競争の貿易モデル)を用いて、相互関税の効果を明らかにすることができます。
我々の分析では、一見すると直観に反する、興味深い結果が得られます。自国の利益だけを追求して関税を課すA国と、相互関税の賦課にコミットしたB国との間の貿易を考えてみましょう。(詳細はOptimal Trade Policy Under Reciprocal Tariffs < https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=5255517> を参照)。
結果1:A国は、両国が自国の利益だけを求めて関税を課す「関税戦争」時の関税より、「低い関税」を課すことが望ましいです。片方の国が相互関税の賦課にコミットしていることで、関税戦争より両国の関税は低く、貿易は関税戦争時より活発に行われます。
結果2:両国が対称的で生産費用にある条件を付けると、A国はゼロ関税を選び、その結果、相互関税を課すB国もゼロ関税になります。つまり、自由貿易が両国の間で達成されます。
このように、相互関税のある面に着目することで、鋭い経済分析ができます。ただし、上記の結果を解釈するときには、本コラムでの相互関税と実際のトランプ相互関税とは完全には一致していない、ということに注意してください。