教員コラム 経済学専攻
自分でデータを作成する意義(経済学 稲垣 一之 教授)
2024年09月03日
ここ数年における私の研究は、産業用ロボットに焦点を当てています。産業用ロボットに関する様々なデータを扱ってきましたが、その中でも日本のデータは非常に充実しています。資料の中には日本語でしか公刊されていないものがあり、私がネイティブの日本人である利点を生かして、珍しいデータを入手する機会にも恵まれています。その結果、「多くの研究者が高い関心を寄せているが、政府等が整備していないため推移が分からないデータ」を自力で作成することが出来ました。その成果をコラムとして簡単に紹介したいと思います。
上述したデータは、産業用ロボットの輸出価格指数で、日本と取引相手国との二国間をベースにしたものです。平たく言えば、外国に対する日本製ロボットの販売価格の推移を知ることが出来るデータです。世界中でロボットが普及したことにより生産自動化が拡大してきましたが、世界で使われているロボットの大半は日本製です。下のグラフより、貿易相手国を中国とした場合、日本の産業用ロボットの輸出価格は急激に低下してきたことが分かります。そのため、日本製ロボットは、「現地の労働者よりも安い」という理由で海外に普及したという仮説を立てることが出来ます。
上記の仮説を検証することは、先進国と途上国の関係を理解する上で重要であると私は考えています。先進国の労働者の賃金が高水準で推移するため、その先進国の企業が費用削減の観点から安価な労働力に魅力を感じて、一部の業務を途上国へ委託してきました。しかしながら、日本製の産業用ロボットのように安価で生産性の高い機械が世界中で普及すれば、グローバルな生産活動で途上国が果たしてきた役割がロボットに奪われるかもしれません。あるいは、「先進国の一部の業務は、ロボットを生産できる別の先進国へ委託される」と解釈しても良いでしょう。特に機械で代替しやすい定型業務については、この傾向が強く出ると考えられます。
ただし、上記の内容は、あくまでも仮説です。現在は、その妥当性を実証的に検証しています。自分でデータを作成することは非常に大変で、分析に行きつくまでに私の場合は1年以上かかりましたが、誰も知らない事実を発見できるという意味では大変楽しい時間となっています(このコラムを執筆している現在も分析中です)。
2021年を100に基準化した指数データ。
「ロボット産業需給動向」より筆者が独自に作成。