教員コラム 経済学専攻
いろいろなところで使われている経済学(経済学 西森 晃 准教授)
2023年11月01日
今回、このコラムを担当するにあたってどのようなテーマにしようかなと考えていたところ、ちょうど日本経済学会の秋季大会で興味深い報告を聞くことができたので、そのことについて書くことにします。
最近、「経済学の社会実装」という言葉をよく聞くようになりました。経済学は元々、理論やデータを使って社会のあり方を考えたり、政策や社会現象の評価をしたりする学問で、これはこれで面白い上に社会的な意義もあるのですが、個人や企業にその学問がどう役に立つのかと言われるとストレートな回答をするのが難しいところがあります。
しかし、これまでに経済学で培われてきた様々な技術(例えば消費者の行動を数式で近似する、データを使って様々な現象の相関・因果関係を確認するなど)を使って、企業・NPO・公共団体などに対してこれまで気づかなかった視点を提供できることがわかってきました。それが上で述べた「経済学の社会実装」です。有名なところでは、googleがWeb広告の掲載枠にオークション理論を使ったり、Amazonが価格設定を分析するために大量の経済学博士を雇用したりしていることが知られています。それ以外にも,保育園の待機児童を減らすためのアルゴリズムを開発するとか、クチコミサイトの適切なレーティングの仕組みを提案するということもあります。このような動きは、アメリカではすでに20年ほど前から始まっており、日本でもこの5年ぐらいで急激に普及してきました。東京大学がコンサルティングの会社を立ち上げたり、サイバーエージェントが経済研究のための人材を幅広く募ったりしているのがその代表的な例です。
私自身はこうした動きがあることは知っていましたが、日本ではまだ一部の先駆的な経済学者が取り組んでいるだけで、それほど一般的ではないと考えていました。しかし、今回学会に参加してみて、その動きは思ったよりも広く深い領域に浸透していることを知りました。
今回の報告の中で次の言葉が非常に印象的に残りました。「一昔前は、大学院に行くというのはアカデミックな世界で生きていくことを意味していました。でもそういう時代はもう終わりました。アカデミックな世界に残ることももちろんできますが、それ以外にも経済学を生かして仕事をすることができるようにもなっています。学問の世界に進んだ人に、こういう世界もあるのだよということは強調したい」
経済学を使ってコンサルタントをするには多くのマンパワーが必要です。そのため、現在は経済学の修士号や博士号を持つ人材の需要が大幅に増えているそうです。かつては大学院に進むことの1つのネックが就職でしたが、少なくとも経済学に関して言えば、その問題は解決しつつあるようです。学部時代に経済学に惹かれ、もっと学びたいと思った人たちにとって、これは間違いなく朗報でしょう。
私自身は経済学の面白さと美しさに魅せられてこの世界に入りました。経済学は論理的思考の訓練や、幅広い視点の獲得という意味で役に立つという信念は持っていますし、それを伝えるように講義をしてきたつもりですが、正直なところ具体的なツールとして経済学が役に立つという観点はほとんどありませんでした。今回の報告を聞きながらその点を大いに反省しつつも、経済学の新しい方向性に希望をもらいました。