教員コラム 経済学専攻
「代替」か「補完」を考慮して分析してみませんか(経済学 神野 真敏 教授)
2023年04月14日
新型コロナの流行により、感染の拡大を懸念して、国際的な移動はいったん閉ざされてしまいました。しかし、その閉ざされた扉も、2023年の春の到来とともに、ようやく開かれつつあります。
図表1は、日本における出入国者数、および外国人労働者の推移をまとめたものになります。2008年から2019年までにおいて、海外への出国者の数は、平均170万人水準でそれほど増えていないものの、入国者の数は、2008年の835万人から、2019年には3,188万人へと急激に増加しています。これは年平均の成長率で表すと、12.95%となります。つまり、この10年間で約10%ずつ、訪日者数が増加していることを意味します。しかし、コロナが流行していた2020年から2022年の間は、出入国者ともに500万人を下回っています。特に、2021年は出国者で51万人、入国者で25万人と、海外との扉は完全に閉ざされたといっても過言ではありません。
その一方で、日本における外国人労働者数は、どうでしょうか。2008年から2019年までにおいて、その年平均の成長率は、訪日外国人の成長率を下回るものの、11.8%と、やはり高い水準を維持していました。では、2019年から2022年のコロナ禍では、どのような状況でしょうか。図表1にもある通り、実は、増加し続けています。年平均の成長率は、3.19%となっています。さらに、国勢調査を基にした2019年から2021年の日本における人口の年平均の成長率は-0.42%と減少していることと比べると、外国人労働者の成長がいかに際立っているかが理解できると思います。
このような外国人労働者の増加は、日本経済、特に労働市場においてどのような影響を及ぼしたのでしょうか。一般的には、労働力不足を補う部分が強調されています。このような影響が真の影響ということであれば、賃金率の上昇を抑制したと考えられるでしょう。しかし、その一方で、日本人と外国人が補い合い、お互いの労働生産を高めている場合も考えられます。このような影響が真の影響であるならば、コロナ禍の不況を下支えした労働力であったかもしれません。
どちらの影響が真の影響といえるでしょうか。このような真の影響がどのようなものかを判断する際に考えなければならない点は、日本人労働者と外国人労働者において、どのような関係があるか、つまり、代わりとなる代替の関係にあるのか、あるいは補い合う補完の関係にあるのかという点です。このような関係性は、近年話題に上がることが多い、人とAIの関係にも当てはまると考えています。
私は、このような点を考慮しつつ、外国人労働者を受け入れる真の影響を分析する必要があると考えています。以上のような考えを持ちながら、受け入れる影響を一緒に考えてみませんか。
図表 日本における出入国者および、外国人労働者数
出典)出国者数・訪日者数は日本政府観光局より、外国人労働者数は厚生労働省「外国人雇用状況」より入手。