教員コラム 経済学専攻
大学院への進学について(経済学 荒井 智行 教授)
2022年04月28日
大学院に進学するかどうか迷われている人は、少なくないように思われます。学部生の時に執筆した卒業論文の内容を、さらに深めたり発展させたいと思ったり、今日の複雑な経済や社会の状況から、自分が関心を払うテーマについて、納得するまでもう少し学んでみたいと考えることは、人間としてごく自然なことだからです。ですが、大学院は研究者になるための学びの場所で、自分にとってハードルが高いと考えている人もおられるかもしれません。
いずれかの職種に就職する前に、より専門的な学びを身につけておきたいと考えている人、研究者を志望して大学院への進学を検討している人、大学卒業後、就職した後でもう一度学び直したいと考え、大学院への進学を悩んでいる人など、ひとによって、大学院に進学する理由はさまざまかと思われます。そうした思いを持っているひとは、まずは修士課程を修了するまで大学院に通ってみてはいかがでしょうか。研究者を志望する人でもそうではない人でも、自分が研究することに合っているかどうかについては、実際に大学院に進学してみなければ分からないのではないかと思われます。修士課程が終わる頃までに、自分にとって、研究の向き・不向きを判断しても遅くはないと考えます。もっとも重要なことは、修士課程の間で、何をどのように研究に打ち込んだかどうか、ではないでしょうか。
ご承知のように、大学院は、「博士前期課程」と「博士後期課程」に分かれていますが、前者に該当する「修士課程」では、基本的に2年間で大学院の研究を終えて修了し、修士号を取得することができます。
なお、私が研究対象としているイギリスでは、大学院を支える社会全体のシステムや制度は日本よりも十分に整っているように感じられます。実際に、数年前に私はイギリスのいくつかの大学に調査したこともありますが、イギリスでは、研究者志望ではなくても、経済学、経営学、法学、さらには歴史や文学や哲学を学ぶために、大学院に進学する学生も少なくありません。ただし、近年、イギリスの大学や大学院を取り巻く状況は変化が激しく、イギリスの大学院のあり方も数年前と同じではない点については注意を払う必要があります。
それでも、イギリスに限らず、欧州の多くの大学や大学院において幅広い年代の学生が多く在学していることは、世界的に広く知られています。一概に言うことはできませんが、欧州の大学院では、年齢層に関わりなく、就職後、一定の年数で働いた後で学び直すために進学する学生も数多くいます。そうした欧州の諸大学においても共通することと思われますが、イギリスでは、「学ぶ」ことが、人生の中のひとつの橋にすぎないと考えられています。
もちろん、日本とイギリスにおいて、大学院を支える経済や社会の仕組みや制度は異なります。そのため、日本で大学院に通うことの利点については、イギリスも含めて欧州の諸大学のように同一に考えることはできないように感じられます。
ですが、近年、日本においても、「生涯学習」という言葉が広まっているように、何を学び、何を身につけたかという点について、社会的に重視されるようになっています。日本の大学院で「学ぶ」ことは、年齢に関わりなく、生涯にわたって高度で専門的な知識を身につける場として、社会的に認知されています。また、日本の大学院において、少人数教育を通じて、専門的な研究に打ち込むことができる貴重な場であることは、世界の諸大学と何ら変わりないといえます。大学院での学びで得られた知見や専門的な研究は、その後の将来において、きっと有意義なものになると考えます。本学大学院の社会科学研究科を修了した多くの学生が、さまざまな業界や分野で幅広く活躍されていることは、そうした事実を裏付けていることと思われます。
このコラムを読まれている読者におかれましても、本学大学院の社会科学研究科で専門に学びたいと思う研究がありましたら、修士課程まででも、是非前向きに検討して頂ければと思います。学部の時には得られなかった深い学びを通じて得られる悦びは、長い人生の上でもかけがえのないものになると思われるからです。