教員コラム 経済学専攻
ロボットと労働者の相対価格 (経済学 稲垣 一之 教授)
2023年03月02日
経済学の枠組みでロボットを議論する場合は、「労働者を必要とせず、生産を自動で行う機械設備」という側面が強調されることが多いです。従来は人間(労働者)が担当していた仕事をロボットが代替する場合、企業の需要が労働者からロボットへシフトするため、雇用や賃金が決まる労働市場がロボット化の影響を受けると考えられます。この仮説は、多くの研究によるデータ分析を通じて実際に支持されてきました。それでは、企業の需要を労働者からロボットへシフトさせるのは、どのような要因でしょうか?
その1つの要因は、ロボット価格の低下です。以下のグラフには、「産業用ロボット平均価格÷従業員一人当たりの報酬」の推移が示されています。このデータは、企業にとっての「ロボット購入費用÷人件費」に近い指標となっており、データの値が小さくなれば労働者よりもロボットの方が相対的に安くなっていることを意味します。グラフでは、1990年の各国のデータを100に基準化しており、2008年にはデータが30から40の値をとっていることが分かります。したがって、約20年の間に、ロボット購入費用は人件費と比較して60%から70%ほど低下しています。また、この傾向は現在も続いており、企業が自動化のためにロボットを購入しやすい時代が到来しつつあります。言い換えれば、企業にとって、仕事を人間に任せるよりも、ロボットに任せた方が費用削減につながる場合があり、この影響を受ける労働者は更に増えると予想されます。
なお、ロボットの費用には、本体以外にも、安全装置やシステムインテグレーションなどの費用が含まれます。これらの費用も近年の技術進歩により急速に低下しており、ロボットシステム全体としてみても上記の傾向は変わらないと考えられます。
私個人の研究では、ロボットが資本に分類されることに注目して、ロボット化が国際資本移動に与える影響を分析しています。ほぼ全ての先行研究が労働市場に注目する中で、資本市場に分析の対象を絞ることは勇気がいりますが、丁寧に分析してロボット化の重要性を新しい側面から説明したいと考えています。
出所:International Federation of Robotics (World Robotics 2009 Industrial Robots)